第3話

「てか、なんで人の家勝手に入ってきてんの……」

「俺、ばーちゃんから鍵もらってるもん。まあ、ラインも知ってるから連絡くれたらすぐ来るんだけど」

「えっ待って!いや鍵もどうして望が持ってるか謎なんだけどそれは一旦置いておいて、おばあちゃんラインやってるの⁉︎」

「あら、言ってなかったかしらね」

 聞いてないよ……。

 なぜ孫が祖母のラインIDを知らず、他人の男が知っているのだろうか。

「今すぐ裏の家に住んでるんだけど、事務所代わりだからいつでもいるんだ。ばーちゃん腰悪いから、何かあったらすぐ来れるようにしてて」

「あっそう……」

 昔から望は人懐っこかったけど、ここまで他人の家に入り込むとは。

 にこにことしている望を改めてじっと見つめてみる。

 昔と変わらず、柔らかな笑顔にぴょんと跳ねる髪の毛。

 少し逞しくなっているが、記憶の中の望と同じだった。


「にしても、急にどうしたの?まーちゃん仕事は?大きなところに勤めてたよね」

 ……この空気の読めなさも同じだ。

「べつに。気分転換」

「へえ、いつまでいるの?」

「……いつまでだっていいじゃん」

「……まーちゃん、怒ってる?」

 おろおろとした望の声に思わずむっとしてしまい、眉間に皺を寄せる。

 こういうところが雅代を苛立たせるのだ。


「わたしちょっと外出る」

「えっ雪降ってるよ?」

「じゃあ雪かきしてくる!」

 手元にあったダウンを羽織り、雅代は早足で居間を出た。

 ……やっぱり来なきゃよかったかも。

 勢いよく、玄関の扉を開ける。

 外に出ると、空気の冷たさがびりびりと顔に走った。

 望が言っていた通り、雪がはらはらと降っている。

 写真撮ろう、とポケットを探したところで、携帯を居間に置いてきたことに気がついた。

 まあいいや。どうせ電源は入れていない。

 雪にあたらないよう、屋根の下で静かにしゃがみ込む。


「まーちゃん」

 玄関ががらりと開いて、望がちらりと顔を出した。

「ばーちゃんがココアいれてくれた」

「……ありがとう」

 大人しくカップを受け取る。

 望はその様子を見て、ほっとしたように笑った。

「俺も隣いい?」

「……寒いよ」

「こんなの慣れてるよ」

 くくっと笑って、望が隣にちょこんとしゃがむ。

 雅代はゆっくりとココアを飲んだ。

 やんわりと甘い味がした。


「ごめんね」

「えっ、何が?」

 望が驚いて目を丸くする。

「いや、当たっちゃって」

「当たってたの?」

 素直に謝ったというのに、望は首を傾げて不思議そうに考え込んだ。

「あれくらいで当たったっていうなら、もしかして俺小さい頃毎日当たられてた?」

「そうかも。ごめん」

 一瞬だけ間が開いて、二人とも吹き出した。

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