マリア様は獣でした

俺の幼馴染である杏子あんこは『マリア様』と呼ばれるほど聖人だ

そもそも元となった聖母マリアはキリストの母親である

男性とを持ったことがないのにキリストを身ごもった女性として有名だ

まぁあだ名をつけた本人から直接聞いたわけでもないが恐らく杏子のことを純粋な心の持ち主だと思ったのだろう

それこそ下ネタを言ったら赤面をしてくれるくらいには(もしくは軽蔑)

俺も数秒前までそんなこと思っていたよ

「クソ可愛いブチ犯したい」

この時、俺の聖母は死んだ

少なくともこの聖母は下ネタを大声で笑いそうではある

良平りょうへいの可愛いとこ~?」

どうやら杏子と話している女子生徒はさらに要らない(?)質問をしたようだった

何を言ったのかは聞こえなかったが質問の内容は大体想像できる

口を閉じさせたい、させたいが今入ったら杏子と絶交しそうで怖い

だから俺は我慢して聞くしか選択肢がなかった

「いっぱいあるけどね、今日の朝もだったけど」

何だ⁉朝、俺何かしたか?

まったく覚えがなく焦る

いつも通りの朝だったはずだ

いつも通り起きて、朝食べて部活の朝練に間に合うように学校に行った

本当にそれだけだ、何も可愛い要素はなかった

少なくともブチ犯されるほどの要素はなかった

…何だよブチ犯される要素って

焦りすぎだ、落ち着いて呼吸する

とにかく、考えても分からないものは仕方ない

さぁ続きを早く…そういや、どうしたんだ?急に黙り込んで

そう思い、窓から様子を確認する

「えっとね~…す、少し恥ずかしかったりとか~

だっ、だって!いつも興味なさそうじゃん!そんなストレートに聞かれると…ね?」

手をブンブンとしながら精一杯せいいっぱい抗議している杏子

そこは照れるのかよ!中途半端に聖女になるな!

…いやそのまま聖女に戻ってくれ頼む

段々疲れてきたのか肩を揺らしている

少しした後落ち着いたのか話し始める

「寝顔、寝顔がいいの!

毎日見ても飽きないあの少しよだれを垂らしてるだらしない顔が!」

自分の寝顔知らないのだがだらしないのか

よだれは寝ているのだから許してほしい

「あの口から出てくる聖水をどれだけ舐めたいことか‼グ、グヘヘ」

あ、明日から早起きしよう

目が覚めた時に杏子が隣にいるだけで蕁麻疹じんましん出てきそう

「あとね!あとね!」

好きなものを言う子供のような声を出す杏子

まだあるかーと内心絶望する俺

さっきまで照れていたのは何だったのだろうか

幻でした!と言われたほうがまだ説得力がある

「シャワーの音がいい」

…は?

予想外の方向から攻められ困惑する

「良平のシャワーの音を毎日聞くとねどこから洗っているのか分かるんだ

最初に頭から濡らして、つま先までゆっくりと水をかける

その後に体だけ洗って洗顔するの

…え?覗かないのって?

流石に裸を見るのは~、はっ、恥ずかしいというか」

あまりにもツッコミどころが多すぎる

まずシャワーの音を聞かれていると言うパワーワード

杏子のこと信用しきっているから特に洗面所のドア閉めてなかった

まさか聖女様がこんなケモノだとは思わないもんな普通

そしてシャワーの順番

…正解だよ、凄いなキモ

頭は濡らすだけでシャンプーはしない

汗を流すだけという認識でいい

だけど体臭は気になるので体だけは洗っている

もうここまで来たら風呂を覗いてこないことに感心してきた

でも急に純情な聖女様に戻らないでね心がバグる

「え?トイレ?いってらっしゃーい」

どうやら杏子と話していた女子が廊下に出てくるようだった

マズい、マズいが隠れるようなところもない

いや!ロッカーがある、あの中に息をひそめよう!

急いでロッカーに走り、中に入ろうとする

だがその女子の声が聞こえないのが致命的な遅れを生んだ

中に入り、ロッカーのドアを閉める瞬間に教室のドアが開く

と同時に出てきた女子と目が合う

…終わったーロッカー閉めるの見られた絶対見つかった

これで見つからないのはホラゲーだけ

いや奇跡が起こるかもしれない

そんな思いも虚しく足音が向かってくる

そうですよねーバレますよねー神様は振り向かなかった

諦めてロッカーのドアを開けるとちょうど目の前に女子がいた

何かを探しているようでキョロキョロしているが髪が長すぎるせいで、どこを向いているのか分からない

しばらくするとキョロキョロと動いていた髪が止まり、体がびくっとした

かと思えば何か話している、話しているのだが全く聞こえない

「えっと…なんて?」

そう言うと手をひょいひょいと振る

どうやら耳を貸してほしいらしい

その通りに耳を女子の口元(髪で見えないから推定だが)に近づける

身長差がかなりあり、九十度体を曲げないといけなかった

ハッキリと声が聞こえるようになる

透き通ってきれいな声で言う

「そんなところにいたのですね」

「…バレてなかったのかよ」

「いえ、いるのはわかっていました

ロッカーに隠れるとは思わなかっただけで」

「それはすみませんね」

「…こほんっ

では早速本題で

杏子ちゃんと付き合って下さい」

「断る」

「はいですよね。では早速告白を…今何と?」

「嫌だといった」

「なぜぇ!」

よほど驚いたのか俺の耳元で大きな奇声を発し、飛び跳ねる

そしてその声に反応したのか杏子が出てくる

「どうしたのー?なんかあった…あっ」

と目の前の女子を探す杏子とも目がある

猫を被っていることにバレたからか、どうやら冷や汗をかいている

「…良平さん、いつごろからここに?」

実は結構前から聞いていましたとは言えないよな

言ったら隣で圧をかけている女子に殺されそうだ

まぁ子犬のような圧だが

「今さっき来たんだよ

そしたらたまたまこの子に会って

そういえば最初何か言ってた?雨の音で聞こえなくて」

「……」

流石に怪しかったか?俺も冷や汗が出てきたぞ

少しして杏子の口が開かれる

「それならよかったです」

その言葉を聞いた瞬間、俺と隣の女子はほぼ同時に緊張の糸が解けたのか息を吐く

安心したのか、その様子に気づかないまま話し続ける

「ちょうどいい機会なので紹介しますね

良平さんの隣にいるのは私のバドミントンのペアで親友の深沢ふかざわ 人見ひとみです

声が小さくて最初は聞き取りにくいとは思いますがすぐに慣れると思います」

そう言われると隣の女子、深沢さんはぺこりとお辞儀をする

身長がかなり小さい

中学生と言われても違和感がない

前髪が伸び切っているせいで顔はよく見えない

「とっても可愛いですよー」

いつの間にか近づいてきていた杏子が動物を紹介するようなテンションになっている

ちっさいし(髪のせいで)もふもふだし仕方ないか

…はっ!いつの間にか頭を撫でてしまっていた

これは謎の魔力がある

チワワをつい撫でたくなるようなものである

「わかる、わかるよぉー良平さん

考えることはみんな一緒ですね

バドミントン部でもそんな扱いです」

やはりか…!

そう撫でていると深沢さんは体をブンブン動かしている

何か伝えたいのかな?

「良平さん、そこまでにしてあげてください

人見ちゃん嫌がっています」

「流石仲がいいだけあるな

わかるのか、この子の考えていること」

「いえ、本人が言っています」

「え?」

耳を澄まして聞いてみる

何も聞こえない

「全然聞こえないけど」

「なれたら聞こえますよ」

「本当かそれ⁉」

いやなれるとかの話ではないだろ

そもそも何か言っていることすら分からなかったわ!

そんな万代をしていると階段から安藤あんどうがやってくる

「おーい流石に遅いぞ

先に下駄箱行くから早く来いよ」

「あぁわりぃ!今行く」

そうして教室の傘を取り急いで下駄箱に行こうとする

すると深沢さんに止められ、スマホをぐいぐいと押し付けられる

何か俺に伝えたいようだ

だが俺にはよくわからないかった

「連絡先が欲しいようですよ」

「翻訳助かる

連絡先か、ちょっと待ってな

…スマホあった!ほらっこれで交換完了な」

そうすると満足したのかコクリとうなずかれる

「それじゃあまたな!」

「また明日」「ブンブン」

別れを告げ、下駄箱に急ぐ

その途中でスマホの通知が鳴る

確認すると深沢さんからだった

初めてのメッセージなのに内容を見て思わずため息が出てしまった

『絶対、杏子ちゃんと付き合ってもらいますから』

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