マリア様の裏の裏

気まぐれなリス

第一話 俺の知ってるマリア様はどこ行った?

「…さん、良平りょうへいさ~ん。起きてください~朝ですよー」

目を開けると横から俺をさする親友がいる

「ぅん?あぁおはよう、いつもありがとうな」

「気にしなくていいですよー

好きでやっていることですから

早くお風呂に入ってくださいね

私、お腹すきました」

「おう、待ってろー」

少し寝ぼけながらも二階にある自分の部屋を出て隣の風呂場に向かう

そのまま軽くシャワーを浴び、制服に着替える

学生鞄がくせいかばんを持ち、一階に降りるとおいしそうな匂いがする

「母さん、今日パン?」

少し大きな声で聞くとキッチンの方から

杏子あんこちゃんが、おいしそうなジャムを持って来てくれたのよ

感謝しながら食べなさいよ」

「いえいえ、いつも朝食ごちそうになってますから」

「杏子ちゃんならいつでも大歓迎よ~」

と楽しそうな会話が聞こえる

俺がリビングに着くと、早く食べたいのか杏子はもう席に着いていた

そんなことを思いながらも俺も腹が減っているので急いで杏子の向かい側に座る

「「いただきます」」

そう声を合わせると、まずは何もつけずにパンにかじりつく

トースターで焼いているからパリッとしていておいしい

今度は杏子が持ってきたジャムを豪快に塗って食べる

「杏子、これ美味いな」

「お母さんが職場からもらってきたんです

良平さんが喜んでいたと伝えておきますね」

「おう」

近くにあったリモコンでテレビをつけ、いつものチャンネルに変える

するとちょうど天気予報が始まる

「あ、今日雨降るな」

「すみません

今日持って来てないので傘、借りますね」

「おう、明日返してくれればいいから」

そうしている間に二人とも食べ終わる

今出れば部活の朝練に余裕で間に合うだろう

そこまで急いでるわけでもないが玄関に向かう

本当に忘れ物がないか確認し、手に傘を持ち玄関のドアに手を掛ける

「じゃあ行ってくる」「いってきます」

「いってらっしゃーい」


「それで学校に来た」

「いいなぁーお前には杏子さんという可愛い幼馴染がいてよ

部活の朝練も被るから一緒にご登校ですか」

「彼女持ちが何を言う」

放課後の部活動の時間に今日も同じような会話をする

今日は予報通り雨が降ったためミーティングという名の無駄話の時間だ

今話しているコイツは安藤あんどう 光海こうみ

同じ陸上部の友達である

クラスは別で部活以外ではめったに話さないが部活の中では一番仲がいい

顔はかなり整っている方で頭は残念だが運動神経がいいからモテる

しかも性格もよく、今の彼女とは中学の頃からの付き合いだとか

一途で他人を思いやれる…本当に頭以外はいい男である

「お前テストの点はどうなんだ」

「いやぁー全部赤点だった

またにお世話になりますわ」

「本当に勘弁してくれよ」

俺の幼馴染の永美ながみ 杏子あんこは何でもできる

成績優秀で運動神経抜群、そして顔がいい

部活動はバドミントン部に入っており、すでにエースなのだとか

また聖人のような性格をしており、ついたあだ名が『マリア様』

聖母マリアから着想を得たそうだ(ソースは不明)

そんな彼女は俺の幼馴染である

幼稚園の頃から高校二年生の今までずっと一緒だった

そしてこの話をすると、みんながみんなこう聞いてくる

「正直、杏子さんのこと好きだろ」と

そして毎回のように

「全然?異性として意識できない」と答える

あんまりにも長い時間一緒にいたからか、俺にとって杏子は家族のような存在なのだ

異性というよりは姉というか

そして多分だが杏子も同じような考えだろう

その証拠に俺は中学の頃、杏子から恋愛相談をされたことがある

なんでも好きな人にアピールする方法を異性である俺に聞きたかったと

その時は、コイツ人のこと好きになるのか⁉と衝撃的だった

あんまりにも想像できなかったからな

その時俺は何を言ったか、もう覚えてないけど

そんなことを思いながらボーっとしているとミーティングが終わる

「良平、今日遊び行こうぜ」

「お、いいな

どこに行こうかな」

そんな話をしながら荷物を持った時に気づく

傘を教室に忘れている

「あ…わりぃ

先に下駄箱行ってくれ

傘、教室に忘れてるわ」

「おう、俺もトイレ行ってくるからゆっくりでいいからなー」

やはり気遣いのできるいい男である

急いで教室に向かう

走っても足音が響かないほどに強い雨降っている

幸い明日は休みである

少し濡れても構わないのが救いだ

そんなことを思いながら教室の近くに来た時にかなり大きな声が聞こえる

この声は…杏子か

今のおしとやかな彼女からは想像できない声だった

それこそ昔の少しガサツな彼女が思い出される

とは言っても小学校低学年とかの頃だ

あの頃に比べたら本当に変わったと思う

急に大人しくなって、同時に可愛くもなった

昔の方が素の杏子なら、何をそんなに楽しく話しているのか気になる

よし!「何楽しそうに話してんだ?杏子」で俺も少し会話に混ざろう

そしたら杏子も敬語でなくなるかもしれない

実は少し距離を感じていて寂しいとかでは決してない

昔の方が接しやすかったとか、そういう訳でもない

そうして教室のドアに手を掛ける

杏子は…どうやら外の窓側にいる女子生徒と話しているようで、こちらを見ていないようだった

意を決して開けようとしたとき、たまたま杏子の発言が聞こえる

「本当に良平はさぁ~」

まさか俺の話をされているとは思わず驚いて手を離し、身を隠す

正直に言おう、杏子にどう思われているのか知りたい

…これで最近臭いとか言われてたらショックだからだ

最近自分が汗臭いのではと気にしているのだ

そこら辺を主に聞きたい

そして俺の前では絶対話してくれないから、こっそり聞くことにした

杏子と話している女子生徒は声が小さいからか、雨音が大きいからか何を言っているのか聞こえない

がしかし杏子の声が大きいから、よく聞こえた

「良平のことどう思っているかって?

もう正直に言うと死ぬほど可愛いブチ犯したい」

……………………………………は?

『マリア様』からは絶対出てこない言葉が出てきた

俺の知っている幼馴染はこの瞬間にどこかに消え去った

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