いつもと同じなのに違う朝

「…さーん、良平りょうへいさぁーん起きてくださーい」

今日もいつもどうり親友が起こしに来たようだ

体を起こそうとする、しかし起きることができない

それに何か変だ、いつもとは違って杏子あんこの服が違うような…

「起きないとー」

「…ん?」

「襲っちゃいますよ…?」

そこにいたのはドスケベな格好をした聖女杏子だった

「うわぁ⁉…夢かぁ」

夢だと安堵しながらもいつか現実になるかもと震えてしまう

窓を開け外を見るとまだ暗かった

かと言ってもう一度寝れるかというと無理だった

最悪の悪夢のせいで目が冴えてしまった

時計を見ると五時を指していた

思ったよりもいい時間だった

なので先に風呂に入ってゲームをして時間をつぶす

たまには早起きもいいな


少しすると玄関のドアが開く音がする

誰か来たようだ

階段を上って俺の部屋のドアを開ける

もちろん杏子だった

「おはよう杏子」

早起きしてスマホをいじる俺がよほど珍しいのか目を点にしている

「おはようございます良平さん、早いですね」

「ああ少し悪夢を見たんだ」

「チッ」

今杏子が舌打ちをしたように聞こえたけど気のせいだろう

「お風呂は…?」

「もう入った」

「チッ」

絶対舌打ちしてるぅー

杏子の顔を見るのが怖くスマホから目が離せない

しかし当の本人は何もなかったかのように話し始める

「それでは少し早いですが朝食にしましょう」

「お、おう。そうするか」

「お腹すきましたねー」

「ハハハ、そうだな」

一階に降りる

机を見るとすでに食卓には朝食が並んでいた

「あら?良平の割には早いわね」

「ちょっと夢見が悪くて」

「そう…まぁいいわ

朝早いんだからゴミ出してから行ってちょうだい」

「はーい」

いつもの席に座りニュースをつける

今日はどうやら快晴らしい

放課後はきちんと練習できそうだ

そんなことを思いながら朝食を食べる

「杏子ちゃん、今日機嫌悪い?」

何かを感じ取ったのか母さんが聞く

その声に思わず、びくりと反応してしまう

「いいえ?そんなことありませんよ」

「いや、絶対機嫌悪いでしょ

あんたもそう思うよね?良平」

俺に振るな!と空気の読めない母親め

何を言ったら正解なのかもよくわからないのでとりあえず

「そ、そうか?」

とだけ返す

いや不自然すぎる

これ以上言及されたらマズいので朝食を全て平らげ鞄を持つ

「俺、先にゴミ出しておくから!ゆっくり食べろよ」

「あ!良平さん!」

杏子の声も無視して逃げるように外に出る

ゴメン!杏子

俺にはどんな顔をしてお前に会えばいいのかわからねぇ


結局あの後気まずくなってしまい先に行ってしまった

悪いことをしたと反省はしている

そんな少しの後悔を抱えながら授業を受ける

昼休みに入った少し後に突然スマホの通知が鳴る

どうやら深沢ふかざわさんからだった

『飯、屋上で一緒に食うぞ』

まぁ特に約束もなかったので屋上に向かうことにした

それにしても屋上は鍵がかかっていて入れないのではなかったかと疑問に思う

屋上の扉の前に来るとポツンと座っている女子を見つける

あの髪の長さは間違いない、深沢さんだ

「待った?」

「ん、遅い」

慣れたからか、それとも雨の音がないからか微かに抑揚のない声が聞こえる

だけどその声は少し怒っているようだった

「…何かあった?」

「今日、杏子ちゃんの機嫌凄く悪かった

何したの?」

「あーまぁ早起きして風呂に早く入ったぐらいだよ」

「なんてひどいことを」

「そんな言われるほどですかね」

「杏子ちゃんの生きがいを奪ってる」

「その生きがい俺の何かが減る気がしているんですがね」

「あと私への愚痴が増える」

「主な理由それですよね!」

そう友達に突っ込むテンションが出る

するとノリを合わせてくれたのか

「正解…ッ」

と親指をピシッと立ててくれる

少し馴れ馴れしかったかと思ったが深沢さんにはちょうどいいようだ

女子とこのテンションで話すことがないので割とうれしい

少し落ち着いたからか深沢さんは弁当を開ける

俺もそれに合わせてパンを開ける

そんな俺を見て一言

「パンだけ?」

「そうだけど

そっちこそそれだけ?」

深沢さんの弁当にはウインナーと卵焼き、あとトマトだけしか具材がない

そしておにぎり小さいのが一つ

俺からしたら足りなさすぎる

「私はこれで満足できる

あんたのは健康に悪い」

「うっ健康については言わないでくれ

杏子にも結構言われてんだ」

「杏子ちゃんに作ってもらえば?

本人も作りたいって言ってた」

「深沢さんこそ作ってもらえよ

食べないと大きくなりまちぇんよ」

立ち上がって身長マウントを取る

だが深沢さんはこっちを見ようとしない

「…怒った?」

「ん?いや

今、顔見ようとしたら首が痛くなるから」

「あ、そういう感じね」

「どれだけ牛乳飲んでもあんまり伸びなかったから食べても変わらないと思う」

「牛乳は骨を強くする飲み物だから身長は伸びないらしいぞ」

「うそぉ」

「ほんとぉ」

座ってパンをかじる

深沢さんも小さい一口で食べる

ほとんど同時に食べ終わる

特に用事もないので教室に帰ろうとすると去り際にポツリと

「なんで杏子ちゃんと付き合わないの?」

その質問が一番されたくなかった

俺はこう答えるしかないから

「家族…みたいなものだからな」

「うーん

まぁ分からないこともないけど

杏子ちゃん、お姉ちゃんみたいだもんね

いいじゃん近親相姦」

「よくないよ⁉」

そうツッコむと俺の頬を背伸びしてつまむ

「ん、よくないこと聞いたゴメン」

「…この手は何のつもり」

「笑顔にしてる」

「それはどうも」

「でも杏子ちゃんの気持ちも考えてあげて、ね」

「…わかったよ深沢さん」

「ありがと、ね」

深沢さんなりの気遣いなのだろうか

ぷにぷにと柔らかい手を降ろし階段を降りる

その途中、再度深沢さんに声をかけられる

「深沢さんじゃなくて、人見ひとみでいいよ」

「じゃあ人見さん、またね」

「ん、また誘う」

歩きながら手を振る

いつの間にか杏子とどう接すればいいのかという悩みは消えていた

いつも通りでいいのだ

そしてゆっくり決めて行こう

それが分かっただけでもいい昼休みだった

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