9章 古き遺跡の門扉
第33話 開かれし禁域への扉
~スキルとは~
この世界において、「スキル」と呼ばれる力は、基本的に生まれながらにして女神から与えられる「ギフト」だと考えられている。それは人生で一つ、あるいは極稀に二つ授かるかどうかというもので、どんなスキルを、どれほどの強さで持つかによって、その人の人生は大きく左右されると言っても過言ではない。
もちろん、例外がないわけではない。強い精神的衝撃を受けたり、生死の境を彷徨うような壮絶な経験をしたり、あるいは神殿での血の滲むような修行や、特殊なアイテムを使用するなどして、後天的に新たなスキルが発現したり、元々持っていたスキルが「覚醒」してより強力なものへと進化したりする、という話も伝わってはいる。けれど、それは、極めて稀有なケースだ。
一般的な常識としては、スキルは増えず、レベルアップもしない。努力や訓練は、与えられたスキルをより上手く使いこなすための「練度」を上げる行為であって、スキルそのものを成長させるものではない――それが、この世界の誰もが知る共通認識だった。
そのため、他人には、自分の持つスキルを伝えることはしないし、家族に対しても、秘匿にする。ただ、スキルを持っていると明らかに、そのスキルに応じた能力が向上することから、観察力のある人がみると違和感等を感じることはできる。
~
(…だから、僕のこの力は、やっぱり異常なんだ)
僕は、古代遺跡へ向かう調査隊の一員として森を進みながら、改めて自身の内にある不可解な力を反芻していた。
生まれつきスキル無しとされ、落ちこぼれのポーター業務しかできなかった僕が、今では信じられないほどの数のスキルを身につけている。しかも、ただ数が多いだけじゃない。経験を積めば、スキルには「レベル」のようなものが生まれ、確実に成長していくのだ。
(僕が今、使えるスキルは…)
戦闘系なら、【剣術(基礎)】はLv.3くらいだろうか。【剣術(応用)】もオーガやゴブリンロードとの戦いでLv.2になった。【身体強化】は(中)Lv.1に進化し、【受け流し】も熟練度は増している。【自己治癒(微弱)】はLv.1だけど、オーク戦では命を救われた。【筋力強化(中)】と【斬撃強化】もLv.1で覚えたばかりだ。範囲攻撃の【剣術(範囲攻撃)】もLv.1だな。
探索系も充実してきた。【索敵(低)】、【隠密(低)】、【危機察知(低)】は、森での経験でLv.2くらいにはなっているはずだ。そろそろ(中)レベルに上がってもいい頃かもしれない。
採取系は、【薬草知識(初級)】Lv.2、【剥ぎ取り】Lv.2、【採掘】Lv.1。
鑑定系も、【鑑定(鉱石)】、【鑑定(道具)】、【鑑定(植物)】と、それぞれLv.1だけど三種類も覚えた。
生産系は、ボルガンさんのところで鍛えた【鍛冶(基礎)】がLv.5と一番高い。【鍛冶(観察)】Lv.4、【金属知識(初級)】Lv.1、【温度管理(低)】Lv.1、【筋力制御】Lv.2、【道具作成(簡易)】Lv.2もある。
耐性系も、【耐幻覚(低)】、【耐麻痺(低)】、【火耐性(微弱)】、【耐毒(低)】、【耐瘴気(低)】と、気づけば五種類も身についていた。これもレベルはまだ低いだろうけど。
他にも、【指導(初級)Lv.1】、【戦術思考(初級)Lv.1】、【武器知識(斧)Lv.1】、【構造解析(低)Lv.2】、【連携(初級)Lv.2】、【持久力向上(小) Lv.3】…。
(こうして考えると、本当に信じられない数だ…)
この力の根源…経験を糧にして自動的にスキルを習得・成長させる【自動学習】とでも呼ぶべき能力のことは、まだ僕自身も完全には理解できていない。けれど、この異常な力は、絶対に他人に知られてはいけない。もし知られたら、僕は一体どうなってしまうのだろう? 異端者として追われるのか、あるいは便利な道具として利用されるのか…。想像するだけで、背筋が寒くなる。
それでも、この力があるからこそ、僕はCランクになれた。ボルガンさんや銀の百合の皆さんとも出会えた。そして今、この古代遺跡調査隊の一員として、森の異変という大きな問題に立ち向かおうとしている。
(この力を、正しく使わなければ…)
バルガスさんの言葉を胸に、僕は気を引き締めて前を見据えた。
*
古代遺跡調査隊の出発の朝は、フロンティアの街にしては珍しく、晴れやかな青空が広がっていた。ギルドの前には、今回の任務に選ばれた十数名の冒険者たちが集結していた。
僕、カイト(Cランク)。
リーダー格となるであろう「銀の百合」のルーシィさん(Bランク・剣士)、ララさん(Bランク・斥候)、ソフィーリアさん(Bランク・支援/回復魔法)。
そして、僕に敵意を隠さないアレスさん(Bランク・雷鳴剣の使い手)。
その他にも、屈強な鎧に身を包んだ盾役の戦士、ローブ姿の攻撃魔法使い、弓を携えたレンジャー、経験豊富そうなヒーラーなど、Bランクを中心とした、いかにも腕利きといった面々が揃っている。その中にCランクの僕が混じっているのは、やはり少し場違いな感が否めない。
「諸君、準備は良いか!」
ギルドマスターのバルガスさんが、エマさんを伴って現れ、力強い声で言った。
「今回の任務は、深淵の森最奥部にあるとされる古代遺跡の調査、および森の異変の原因究明と排除だ。道中は極めて危険であり、未知の脅威が待ち受けている可能性も高い。だが、この任務の成否が、我らがフロンティア、いや、辺境地域全体の未来を左右すると言っても過言ではない!」
バルガスさんの言葉に、集まった冒険者たちの顔が引き締まる。
「ギルドの総力を挙げて諸君を支援する! どうか、互いに協力し、それぞれの力を最大限に発揮し、必ずや任務を達成し、そして…全員、無事に帰還してほしい! 頼んだぞ!」
「「「応!!」」」
冒険者たちの力強い返事が、ギルド前の広場に響き渡った。
僕たちは、バルガスさんとエマさん、そして集まった街の人々(中には、心配そうに見送るリズさんやゴードンさん、リリアさんの姿もあった)に見送られながら、東門をくぐり、深淵の森へと続く道へと足を踏み出した。
*
深淵の森・奥部への道程は、予想以上に過酷なものだった。
以前僕が探索したエリアよりも、瘴気はさらに濃くなり、視界が悪く、呼吸も少し苦しい。【耐瘴気】スキルがなければ、もっと消耗していただろう。そして、出現する魔物は、そのほとんどが凶暴化していた。
「前方よりオーガ三体! 左右から大型の魔狼(ダイアウルフ)が回り込んできます!」
斥候役のララさんと、他のレンジャーからの報告を受け、即座に戦闘隊形を組む。
「前衛、オーガを抑えろ! 後衛、魔狼を先に仕留めろ! ソフィーリア、回復支援を!」
ルーシィさんの的確な指示が飛ぶ。Bランク冒険者たちの連携は見事で、格上の魔物の群れ相手にも、危なげなく対処していく。
僕も、その連携の中で自分の役割を果たそうと必死だった。ルーシィさんたちの指示に従い、【剣術(応用)】でオーガの一体を足止めし、【構造解析】で敵の弱点を仲間に伝え、【範囲攻撃】で魔狼の動きを牽制する。Cランクの僕でも、スキルを活かせば十分に貢献できることを実感した。
他の調査隊メンバーも、僕の予想外の働きに驚いているようだった。特に、的確に弱点を指摘する【構造解析】スキルは重宝され、「おい、カイト! こいつの弱点はどこだ!?」と、戦闘中に頼られる場面も増えてきた。もちろん、アレスさんだけは苦々しげな顔で僕を睨んでいたけれど…。
そんな厳しい行軍を続けること数日。斥候から、ついに目的地発見の報が入った!
僕たちは、切り立った崖に囲まれた、谷底のような場所へとたどり着いた。そこだけ瘴気が薄く、奇妙な静寂に包まれている。そして、その谷底の中央に、それはあった。
苔むし、蔦に覆われ、悠久の時を感じさせる、巨大な石造りの門。高さは十メートル以上あるだろうか。その表面には、複雑な幾何学模様と、泉の石碑で見たのと同じ、古代文字のようなものがびっしりと刻まれている。間違いなく人工物だ。これが、古代遺跡の入口…!
「ついに見つけたか…」誰かが呟く。
周囲には、濃密な魔力の残滓と、形容しがたいプレッシャーが漂っている。迷いの泉とはまた違う、重苦しく、何かを拒絶するような雰囲気だ。
「よし、まずはこの門を開ける方法を探るぞ!」
ルーシィさんの号令で、調査隊は門の調査を開始した。
*
「ダメだ…びくともしない」
「強力な魔法的な封印が施されているようだ。我々の魔法では解除できん…」
「この文字も、全く読めんな…」
調査隊の魔法使いや学識のあるメンバーが門を調べていたが、すぐに壁にぶつかった。門は物理的にも魔法的にも固く閉ざされており、刻まれた古代文字も解読不能。まさに、侵入者を拒む鉄壁の守りだ。
(何か、僕のスキルで分かることはないか…?)
僕は門に近づき、【鑑定】と【構造解析】スキルを試してみることにした。
【名称:古き門(封印されし遺跡の入口)】
【状態:強力な魔法封印(複合属性)、物理的ロック機構(特殊)】
【解析:表面の特定紋様に魔力(三属性以上)を同時に流し込むことで封印解除シーケンスが起動。中央の円形石版は物理的な回転式ロック。特定の順序で回転させる必要あり。…順序解析中…エラー。情報不足】
(やっぱり、複雑な仕掛けだ…でも、手がかりはある!)
「あの、皆さん!」僕は声を上げた。「この門、表面にあるあの三つの紋様…そこに、それぞれ違う属性の魔力を同時に流し込めば、魔法封印が解けるかもしれません! それと、中央の丸い石版、あれは回転式の物理ロックになっているようです!」
僕の言葉に、メンバーたちが驚いてこちらを見る。
「本当か、カイト君!? よく分かったな!」
「魔力属性は…おそらく、火、水、風か? 魔法使い、試してみてくれ!」
「物理ロックの回転順序は分かるか?」
「回転順序は…すみません、まだ分かりません。でも、石版の裏側に何か引っかかるような構造が見えます。力ずくでは開かないかと…」
僕の【構造解析】でも、回転の順番までは読み取れなかった。しかし、大きなヒントにはなったはずだ。
魔法使い系のメンバーが、指定された紋様にそれぞれの属性魔法(火、水、風)を同時に注ぎ込む! すると、門全体がゴゴゴ…と低い唸り声を上げ、紋様が淡い光を放ち始めた!
「よし、魔法封印は解けそうだ!」
だが、安堵したのも束の間だった。
魔法封印が解けかけた瞬間、門の中央部、回転式の石版がガシャコン!と音を立てて沈み込み、そこから鈍い輝きを放つ石造りの巨像――ゴーレムが姿を現したのだ!
「なっ!? 門番か!」
「来るぞ、総員、戦闘準備!」
遺跡は、僕たち調査隊を、そう簡単には通してくれないらしい。
古代遺跡の門前で、僕たちの最初の試練が、今、始まろうとしていた!
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