第34話 門番ゴーレムと、交錯する思い
僕の指摘に基づき、調査隊の魔法使いたちが古代遺跡の門に刻まれた三つの紋様に、それぞれ火、水、風の魔力を同時に注ぎ込む。すると、門全体が低い唸り声を上げ、紋様が淡い光を放ち始めた。魔法的な封印は、確かに解除されつつあるようだ。
しかし、安堵したのも束の間だった。
「ガッ! 」
門の中央部にある円形の石版が、大きな音を立てて内側へと沈み込み、そこから鈍い金属光沢を放つ石造りの巨像が姿を現した! 全長は5メートルを超えるだろうか。人間のような形をしているが、関節部分は武骨な歯車のようなもので繋がっており、全身が分厚い石の装甲で覆われている。その手足は巨大な岩塊そのもので、顔に当たる部分には、ただ一つの赤い宝石のようなものが埋め込まれ、不気味な光を放っていた。
「なっ!? 門の中から…! 門番か!」
誰かが叫ぶ。僕たちが仕掛けを起動したことで、この守護者を目覚めさせてしまったらしい。
「グルオオオオ……」
ゴーレムは低い唸り声を上げると、その巨大な石の腕を振り上げ、僕たち調査隊に向かって容赦なく叩きつけてきた!
「来るぞ! 総員、戦闘準備! 前衛、防御態勢!」
ルーシィさんの鋭い指示が飛ぶ! 盾を持つ屈強な戦士たちが前に出て大盾を構え、僕やルーシィさん、そしてアレスさんも剣を抜き、後退しつつゴーレムを迎え撃つ!
ドゴォォォン!!
ゴーレムの拳が、戦士たちの構えた大盾に叩きつけられ、凄まじい衝撃音と地響きが起こる! さらに体当たりにより、盾を構えた戦士たちが数メートルも後退させられている!
「硬いし、重いぞ! まともに受けるな!」
「魔法は効くか!?」
後衛の魔法使いたちが、即座に火球や氷槍をゴーレムに撃ち込む! しかし、炎は装甲表面で弾け、氷は砕け散り、ゴーレムにはほとんどダメージが通っている様子がない!
「物理も魔法も耐性が高いのか…厄介な!」ルーシィさんが叫ぶ。
ルーシィさんの指示により、調査隊は力押しではなく、ゴーレムの動きを封じつつ弱点を探る戦術に切り替えた。
「ララ、レンジャー部隊! 陽動を頼む!」
「オッケー!」「了解!」
ララさんと弓を持つレンジャーたちが、素早い動きでゴーレムの周囲を駆け回り、矢を放ったり、石を投げつけたりして注意を引きつける。ゴーレムは鈍重そうに見えて、意外にも素早く反応し、巨大な腕や足で彼らを薙ぎ払おうとするが、その隙に僕たち前衛が攻撃を仕掛ける!
「関節部分を狙え!」
ルーシィさんの指示に従い、僕たちはゴーレムの膝や肘、肩といった関節部分を集中して攻撃する。しかし、そこも硬い装甲で覆われており、なかなか有効打を与えられない。
(何か…何か弱点はないのか!?)
僕は戦闘に参加しながらも、【鑑定】と【構造解析】スキルをフル回転させ、目の前の巨像を分析しようと試みた。
【鑑定(ゴーレム)Lv.1】(New!)
【名称:ゲートガーディアン】
【種別:古代自律型守護像】
【特徴:物理・魔法防御力が極めて高い。動きは比較的遅いが、一撃の破壊力は絶大】
【弱点:胸部コアクリスタル(動力源)。ただし強固な装甲で保護。関節駆動機構への継続的な負荷により、一時的な機能停止の可能性あり。特に膝裏、肘裏の装甲接続部が構造的弱点】
(ビンゴ!)
鑑定スキルが、ゴーレムにも有効だった! しかも、【構造解析】と組み合わせることで、具体的な弱点まで見抜くことができた!
「皆さん! 聞いてください!」僕は叫んだ。「弱点は胸のコアです! でも装甲が厚いので、直接狙うのは難しいです! その代わり、関節部分、特に膝と肘の裏側の装甲の繋ぎ目が構造的に脆くなっています! そこを集中して攻撃すれば、動きを止められるはずです!」
僕の的確な情報共有に、調査隊のメンバーたちの動きが変わった!
「よし! 全員、膝と肘の裏を狙え!」
「魔法使いは、威力を集中させて一点突破だ!」
前衛の戦士たちがゴーレムの突進を必死に抑え込み、体勢を崩させる。その隙に、僕やルーシィさん、アレスさんたちが、カイトの示した膝裏や肘裏の弱点をピンポイントで攻撃する! 魔法使いたちも、詠唱を重ねて威力を高めた魔法を、同じ箇所へと撃ち込む!
ガキン! バキッ!
今までとは違う、確かな手応え! ゴーレムの関節部分の装甲が砕け、内部の駆動機構らしきものが露わになる!
「グ……オ……?」
ゴーレムの動きが、明らかに鈍くなった! 関節がうまく動かせなくなったようだ!
「やったぞ!」
「動きが止まった!」
調査隊から歓声が上がる。勝利は目前かと思われた、その瞬間だった。
「どけ、雑魚ども! とどめはこの俺が決める!」
アレスさんが、突然単独で前に飛び出した! 彼のプライドが、この状況で手柄を立てることを欲したのだろう。
「食らえ、【雷鳴剣】!!」
彼の持つ剣に、激しい雷が迸る! Bランク冒険者の強力なスキル攻撃が、ゴーレムの弱点である胸部コア目掛けて放たれた!
(まずい!)
僕は直感的に危険を感じた。ゴーレムは動きが鈍ったとはいえ、まだ完全に停止したわけではない!
案の定、ゴーレムは最後の力を振り絞り、巨大な腕で胸のコアを庇うように動いた!
アレスさんの雷鳴剣は、その腕の装甲に直撃し、激しい火花を散らしたが、コアまでは届かない! それどころか、攻撃を弾かれたアレスさん自身が、大きく体勢を崩してしまった!
「しまっ…!」
アレスさんの焦りの声。そこへ、ゴーレムの巨大な拳が、無防備な彼目掛けて振り下ろされようとしていた!
「アレスさん、危ない!」
ルーシィさんが叫ぶ! 誰もが間に合わないと思った、その瞬間――
僕は動いていた。
【身体強化(中)Lv.2】!
僕は地面を蹴り、アレスさんの背中に体当たりするようにして、彼をゴーレムの拳の軌道から突き飛ばした!
「なっ!?」
アレスさんが驚きの声を上げる間もなく、僕は彼のいた場所に飛び込み、振り下ろされるゴーレムの拳を、ボルガンさんから貰った新しい剣で受け流す!
【受け流し】!
ズゥゥン…!
凄まじい衝撃が腕に走り、骨がきしむ! 受け流しきれず、僕の体も数メートル吹き飛ばされた!
(HP -50)
「ぐっ…! 痛ってぇ…!」
地面に叩きつけられ、全身に激痛が走る。だが、なんとか致命傷は避けられたようだ。
「カイトさん!」「カイトっち!」「カイト殿!」
ルーシィさんたちが駆け寄ってくる。アレスさんも、僕に突き飛ばされたことに一瞬怒りの表情を見せたが、自分が助けられたという事実に気づき、複雑な、そして屈辱に歪んだような表情で立ち尽くしていた。
「まだだ! ゴーレムのコアががら空きだ! 総攻撃!」
ルーシィさんが即座に指示を出す!
僕がアレスさんを助けたことで、ゴーレムの胸部コアは完全に無防備になっていた!
体勢を立て直したアレスさんも含め、調査隊全員の攻撃が、コア目掛けて集中する!
剣が突き刺さり、魔法が炸裂し、矢が降り注ぐ!
ガシャン! バキィィィン!!
ついに、胸部のコアクリスタルが砕け散る音が響き渡った!
赤い光が明滅し、ゲートガーディアンはその巨体をゆっくりと傾かせ、そして、大きな音を立てて完全に活動を停止した。
「…………やった……」
誰かが呟いた。
ゴーレムの残骸を前に、調査隊はしばし呆然としていたが、やがて安堵と勝利の歓声が沸き起こった。
戦闘後、ルーシィさんはアレスさんの前に立ち、厳しい表情で言った。
「アレスさん。あなたの功名心からの単独行動が、どれだけ危険な状況を招いたか、分かっていますか? 今回はカイトさんが機転を利かせてくれたから良かったものの、一歩間違えれば、あなただけでなく、我々全員が危険に晒されるところでした。調査隊の一員として、勝手な行動は厳に慎んでください」
アレスさんは顔を真っ赤にして何か言い返そうとしたが、ぐっと言葉を飲み込み、不満げにそっぽを向いた。彼も、さすがに自分の非は認めざるを得ないのだろう。
ルーシィさんは僕の方に向き直り、深く頭を下げた。
「カイトさん、本当にありがとうございました。あなたのおかげで、助かりました」
「いえ、僕も必死だったので…」
他の調査隊メンバーたちも、次々と僕に称賛や感謝の言葉をかけてくれた。「すごい分析力だったな!」「あの機転はCランクとは思えん!」「助かったぜ、カイト!」…。その言葉の一つ一つが、僕の胸を温かくした。
最初の試練は、思わぬ形で乗り越えることができた。しかし、同時に調査隊内部の不和という新たな問題も露呈した。そして、このゴーレムを倒したことで、ついに古代遺跡への扉が開かれることになるだろう。
その先に何が待っているのか…期待と不安を胸に、僕たちは活動を停止したゴーレムの横を通り抜け、固く閉ざされていたはずの遺跡の門へと目を向けた。
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