第30話 祝杯と、新たな仲間たち

深淵の森の奥深く、迷いの泉での試練を乗り越え、僕と「銀の百合」の三人は、それぞれ目的の物や情報を手にしてフロンティアの街へと帰還した。満身創痍の探索行だったが、得られたものは大きかった。特に、Bランクパーティである彼女たちと協力し、共に危機を乗り越えられた経験は、僕にとって何物にも代えがたい財産となった。


その数日後の夜。

僕はいつものように「木漏れ日亭」の食堂で、ゴードンさん特製の栄養満点な夕食を摂っていた。Cランクになってからも、この宿の居心地の良さと料理の美味さは変わらない。僕にとっては、もう一つの我が家のような場所だ。


「あら、カイトさん!」


食堂の入り口から、聞き覚えのある明るい声がした。振り返ると、そこにはルーシィさん、ララさん、ソフィーリアさんの三人が立っていた。私服姿の彼女たちは、冒険者としての凛々しさとはまた違う、華やかな魅力にあふれていた。


「皆さん! どうぞこちらへ!」


僕は驚きつつも、近くの空いているテーブルへ彼女たちを招いた。


「奇遇ですね。私たちも、ギルドへの報告が一段落して、どこかで食事でも、と思っていたところだったんです」とルーシィさんが微笑む。

「カイトっちもご飯? じゃあ、一緒に食べよーよ!」ララさんが、もう僕の隣に腰を下ろしている。

「ふふ、お邪魔いたしますわ」ソフィーリアさんも穏やかに会釈して席に着いた。


自然な流れで相席となり、僕たちは改めて互いの無事を喜び合った。


「それにしても、先日は本当にお世話になりました」ルーシィさんが僕に向き直り、真剣な表情で言った。「あのオーガの群れとの戦い…カイトさんがいなければ、私たちはもっと苦戦していたか、あるいは…無事では済まなかったかもしれません。心から感謝いたします」

「いえ、僕の方こそ! 皆さんと一緒に戦えたおかげで、僕も無事に帰ってこれましたから!」


僕が慌てて言うと、ララさんがニシシと笑って付け加えた。

「でもさー、カイトっちのあの剣、すごかったよね! なんか、オーガの硬いとこ、スパッて斬っちゃうんだもん! あれ、どうなってるの?」

「えっと、それは…」


スキルのことを説明するわけにもいかず、僕が口ごもっていると、ルーシィさんが助け舟を出してくれた。


「ララ、あまり詮索するものではありませんよ。冒険者には、それぞれ秘密の一つや二つ、あるものですから」

「ちぇー、気になるのになー」ララさんは少し不満そうだったが、それ以上は聞いてこなかった。


「そうだ!」とルーシィさんが手を打った。「つきましては、カイトさん。あの時の共闘の成功と、お互いの健闘を祝して、今夜、ここでささやかな打ち上げでもしませんか? もちろん、費用は私たちで持ちますから」

「いいねいいねー! 飲も飲もー!」ララさんが大賛成する。

「ふふ、楽しそうですわね」ソフィーリアさんもにこやかだ。


僕にとっても願ってもない提案だった。


「はい! ぜひ!」



ゴードンさんに事情を話すと、「ほう、銀の百合の嬢ちゃんたちとか。そりゃあいいな。よし、腕によりをかけて美味いもん作ってやるぜ!」と快く引き受けてくれた。番外編で僕が釣ってきた虹色魚がまだ少し残っていたらしく、それを使った特別料理も出してくれるという。


すぐにテーブルには、ゴードンさん特製の豪華な料理が並べられた。香ばしく焼かれた肉料理、新鮮な野菜のサラダ、具だくさんのシチュー、そしてお待ちかねの虹色魚のカルパッチョ! もちろん、飲み物もたっぷり用意されている。


「それじゃあ、私たちの無事な帰還と、頼もしい仲間、カイトっちにカンパーイ!」


ララさんの元気な音頭で、僕たちはジョッキを打ち合わせた。冷たいエールが喉を通っていく。緊張感から解放され、美味しい料理とお酒、そして気心の知れた(まだ日は浅いが)仲間との会話。最高に楽しい時間だった。


「いやー、それにしてもカイトっちのあのタフさ! オーガに吹っ飛ばされても、すぐ立ち上がってくるんだもん! まるで不死身かと思ったよ!」

「ララさんこそ、あの素早い動きと陽動があったから、僕も戦いやすかったです! 本当に助かりました!」

「ルーシィさんの指揮と剣技も、本当に見事でした…。あのオーガの攻撃を受け流した時は、痺れましたよ」

「いいえ、カイトさんの的確な弱点指摘と、あの思い切りの良い範囲攻撃がなければ、もっと苦戦していましたわ。あの状況で、冷静にパーティ全体を見て指示を出せるなんて、とてもCランクになったばかりとは思えません」

「ソフィーリアさんの回復魔法がなかったら、私なんてとっくに戦闘不能でしたよー! タイミングばっちりなんだもん!」

「ふふ、皆さんのお役に立てて嬉しいですわ。でも、カイトさんの自己治癒力も、目を見張るものがありましたわね」


僕たちは、互いの戦いぶりを具体的に褒め合い、健闘を称え合った。普段はあまり口に出さないようなことも、お酒の力もあってか、素直に言葉にできる。それはとても心地よく、僕たちの間の距離をぐっと縮めてくれた。


ララさんは持ち前の明るさで場を盛り上げ、ソフィーリアさんはおっとりとした相槌で皆を和ませ、ルーシィさんはそれを優しく見守りながら、時折的確なツッコミを入れる。彼女たちのバランスの取れたパーティの雰囲気に、僕は自然と溶け込んでいった。



宴もたけなわとなり、美味しい料理とお酒で気分も良くなってきた頃、話題は自然と今後のことへと移っていった。


「森の異変は、やっぱり放っておけない問題よね。ギルドも調査隊を本格的に編成するみたいだし」とルーシィさんが切り出した。

「あたしたちも、また調査依頼受けることになるのかなー?」

「おそらく。でも、あの森の奥はBランクパーティでも危険すぎるわ。単独での行動は避けるべきね」

「遺跡の調査となると、推奨ランクはさらに上がるでしょうし、他のパーティとの協力が不可欠になりそうですわね」とソフィーリアさん。


そこで、ルーシィさんが真剣な表情で僕に向き直った。


「カイトさん」

「はい」

「今回の件で、私たちはあなたの実力と、そしてその誠実な人柄を、深く信頼するようになりました。あなたのような方が仲間でいてくれたら、これほど心強いことはありません」


彼女は少しだけ言葉を選びながら、続けた。


「もしよろしければ…今後も、私たち『銀の百合』と、情報交換をしたり、時には今回のように協力し合ったり…そういう、良き協力関係を築いてはいけませんか?」


それは、Bランクパーティからの、正式な協力の申し出だった。僕にとっては、願ってもないことだ。


「もちろんです!」僕は即座に答えた。「僕の方こそ、皆さんから学ぶことがたくさんあります。ルーシィさんたちの力になれるかは分かりませんが、ぜひ、よろしくお願いします!」


僕がそう言うと、ララさんが「やったー! これでカイトっちも仲間だね!」と嬉しそうに僕の肩を叩いた。

ソフィーリアさんも、「ふふ、心強い仲間が増えて、本当に嬉しいですわ」と、穏やかに微笑んでくれた。


ルーシィさんも満足そうに頷き、僕に手を差し出した。

「では、改めて。これからよろしくお願いしますね、カイトさん」

「はい! こちらこそ、よろしくお願いします!」


僕たちは固い握手を交わした。それは、単なる冒険者同士の挨拶ではなく、これから共に困難に立ち向かうであろう、仲間としての絆の証のように感じられた。


その後も、僕たちの打ち上げは和やかな雰囲気で続いた。森の異変や遺跡の謎、そして僕自身の力の秘密など、解決すべき問題は山積みだ。けれど、今はこうして信頼できる仲間たちと笑い合える時間がある。そのことが、僕に大きな勇気を与えてくれた。


フロンティアの夜は、僕たちの楽しそうな笑い声と共に、ゆっくりと更けていく。

新たな仲間との出会いが、僕の冒険にどんな未来をもたらしてくれるのか。期待に胸を膨らませながら、僕は祝杯のエールを飲み干した。

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