第21話 Cランクへの到達と新たな出会い
ギルドマスター・バルガスさんからCランクへの推薦という、望外の言葉をもらってから数日後。ギルドの掲示板に、僕の名前が正式に掲示された。
Cランク以上に新たに昇格した冒険者は、領主や名のある商人からの指名依頼が発生したり、ギルドからの強制依頼等、義務も発生する。そのため、様々な関係者に周知する関係上、掲示板に掲示されることになっている。これは、冒険者同志のトラブル防止も兼ねているそうだ。
『昇格者発表:カイト殿(Dランク → Cランク)』
短い告知だったけれど、その文字の持つ意味は僕にとって、とてつもなく大きかった。銅色だった僕のランクプレートは、エマさんの手によって、銀色に輝く新しいプレートへと交換された。
「おめでとうございます、カイト様。これで貴方も、一人前のCランク冒険者です」
エマさんは、どこか感慨深げな、それでいて事務的な笑顔で祝福してくれた。
「ありがとうございます、エマさん!」
新しいプレートを受け取り、胸に付ける。ずしりとした重みが、Cランク冒険者としての責任と誇りを感じさせてくれた。周囲にいた冒険者たちからも、「おお、カイト! やったな!」「おめでとう!」「これで俺たちも追い抜かれたか、ちくしょう!」といった、祝福や激励、そして少しの嫉妬が混じった声が飛んでくる。以前の僕を知る者ほど、その驚きは大きいようだった。僕は少し照れながらも、彼らに会釈して応えた。
昇格祝いと、今後のCランク依頼に備えるため、僕は足早にボルガンさんの工房へと向かった。
「おお、若造! ついにやったか、Cランク!」
僕の新しいプレートを見るなり、ボルガンさんは大きな声で笑い飛ばした。
「はい! ボルガンさんのおかげでもあります!」
「ふん、儂は何もしておらんわい。全てお前さん自身の力じゃ。…だが、Cランクとなれば、そのナマクラではちと心許ないのも事実じゃろう」
ボルガンさんはそう言うと、工房の奥から一本の剣を取り出してきた。鞘に収められた、シンプルながらも洗練されたデザインのロングソードだ。
「よし、まずは形からじゃ! これは儂からの昇格祝いじゃ。月光石を使った本命の剣が完成するまでの繋ぎにはなるが、そこらのCランク冒険者が使う剣よりは、よほど業物じゃぞ! お前がこれまで手伝ってくれた礼も兼ねて、特別に融通してやるわい!」
差し出された剣を受け取る。ずしりとした、心地よい重み。鞘から抜き放つと、磨き上げられた刀身が鈍い銀色の光を放った。重心のバランスも良く、振ってみると驚くほど手に馴染む。
「すごい…! こんな素晴らしい剣を…!」
「素材はただの鋼じゃが、鍛えはしっかり入れてある。オークやロックリザード相手でも、十分に戦えるはずじゃ。使いこなしてみせい!」
僕は新しい相棒となる剣を握りしめ、ボルガンさんに深く頭を下げた。
「ありがとうございます! 大切に使います!」
さらにボルガンさんは、僕が自分で補強した革鎧を見て、「ふん、見様見真似にしては悪くないが…まだまだじゃな」と笑いながらも、より効果的な補強の仕方や、いずれ目指すべき鎧の種類と特性について、専門的なアドバイスをくれた。【鍛冶】スキルを持つ僕にとって、それは何よりもありがたい知識だった。
*
新しい剣を腰に差し、僕は意気揚々とギルドへ戻ってきた。Cランク冒険者として、どんな依頼を受けようか。掲示板を眺めているだけでも、心が躍る。
(オーク斥候部隊討伐は達成したし、次はもう少し違うタイプの依頼も受けてみたいけど…)
そんなことを考えていると、背後から不機嫌そうな声が聞こえた。
「フン…雑魚がまぐれ当たりを重ねて、少し調子に乗っているようだな。Cランクだと? 笑わせる」
振り返ると、やはりアレスさんが腕を組んで立っていた。僕の新しいランクプレートと、腰の剣に気づいたのだろう。その表情には、明らかに苛立ちの色が浮かんでいる。
「その剣、少しはマシな得物を持つようになったか。だが、使いこなせなければ意味がないぞ? 宝の持ち腐れというやつだ」
相変わらずの上から目線の物言い。けれど、以前のような絶対的な侮蔑とは少し違う。僕の実力を認めざるを得ない悔しさが、彼の言葉の端々から滲み出ている気がした。
以前の僕なら、きっと萎縮して何も言い返せなかっただろう。けれど、今の僕は違う。
「あなたに追いつけるよう、精進します、アレスさん」
僕は彼の目を真っ直ぐに見返し、静かに、しかしはっきりとそう言った。
僕の予想外の反応に、アレスさんは一瞬、驚いたように目を見開いた。そして、すぐに顔を歪め、さらに苛立ちを募らせたようだった。
「…面白い。すぐに叩き潰してやると思っていたが、少しは楽しませてくれるかもしれんな。せいぜい、俺の足元にも及ばんことを思い知るがいい!」
アレスさんはそう捨て台詞を残すと、わざと僕の肩をぶつけるようにして、ギルドを出て行った。
(…やっぱり、分かり合える相手じゃなさそうだな)
ため息が出たが、同時に、彼との間に明確なライバル関係のようなものが生まれたことを実感した。いつか、彼と対等に渡り合えるように、いや、彼を超えられるように、もっと強くならなければ。僕の心に、新たな闘志が静かに燃え始めていた。
*
アレスさんが去った後、僕は再び掲示板に向き直り、Cランク依頼を探し始めた。オークやロックリザードとは違うタイプの敵とも戦ってみたい。そう思っていると、ふと、穏やかな女性の声が背後からかかった。
「あの、すみません。あなたが、最近噂のカイトさん…ですよね?」
振り返ると、そこには三人組の女性冒険者が立っていた。見慣れない顔だ。フロンティアではあまり見かけない、洗練された雰囲気を持っている。
リーダー格らしい、長い金髪を後ろで束ねた清楚な雰囲気の美人さんが、僕に話しかけてきた。腰にはロングソードを差している。彼女の隣には、栗色の髪をポニーテールにした、快活そうな美人さん。腰には短剣が二本。そしてもう一人、ウェーブのかかった亜麻色の髪の、少し垂れ目がちで、おっとりとした雰囲気の美人さんが、にこにこと微笑んでいる。
三人とも、僕と同じ銀色のプレートを付けているが、その縁には細かい装飾が施されている。あれは確か…Bランク冒険者の証だ。格上の、それも美人ばかりのパーティに声をかけられ、僕は思わず緊張してしまった。
「は、はい! 僕がカイトですが…何か御用でしょうか?」
僕がそう答えると、リーダー格の女性は優雅に微笑んで名乗った。
「私はルーシィと申します。こちらはララ、そしてソフィーリア。私たちは『銀の百合(シルバーリリィ)』というパーティで、最近このフロンティアに拠点を移してきたばかりなのです」
丁寧な言葉遣いと、落ち着いた物腰。見た目通りの、しっかりとした人のようだ。
「カイトさんの噂は、こちらに来てからよく耳にしておりました。Dランクでありながら、単独でオーク斥候部隊やロックリザードを討伐されたとか…。素晴らしいご活躍ですね」
「い、いえ、そんな…運が良かっただけです」
僕が謙遜すると、隣にいたララさんがパッと明るい笑顔で口を挟んできた。
「すごーい! やっぱり噂通りなんだ! 一人でなんて信じらんないよー! ねえねえ、カイトさんって、どんなスキル使ってるの? すっごく強いんでしょ?」
ぐいぐいと距離を詰めてくるララさんの勢いに、僕は少し戸惑う。活発で、人懐っこい感じの人だ。
「えっと、スキルは…その、特別なものは何も…」
僕が口ごもっていると、隣で黙って微笑んでいたソフィーリアさんが、ふふ、と穏やかに笑った。
「ララったら、初めて会った方に失礼ですよ。カイトさんもお困りじゃありませんか」
彼女のゆったりとした口調には、不思議と人の心を落ち着かせるような響きがあった。癒し系、という言葉がぴったりだ。
「ごめんなさい、カイトさん。この子は少し好奇心が強すぎるもので」とルーシィさんが苦笑する。「実は、私たちもこれから森の調査依頼を受けようかと考えていまして。もしよろしければ、最近の森の状況など、少し情報を交換させていただけませんか?」
「あ、はい! 僕で分かることなら…」
彼女たちの態度はとても友好的で、悪い人たちではなさそうだ。それに、Bランクパーティの彼女たちなら、僕が知らない森の奥の情報を持っているかもしれない。
僕たちは近くのテーブルに移動し、お互いの情報を交換した。僕からは最近の中域の様子や、オーク、ロックリザードについて話した。彼女たちからは、さらに奥地での魔物の活性化の噂や、他の街での情報を聞くことができた。やはり、森の異変は広範囲に及んでいるらしい。
「カイトさんは、これからどちらへ?」とルーシィさんが尋ねた。
「Cランクの依頼を受けようかと。ゴブリンロードの討伐依頼が気になっています」
「まあ、ゴブリンロード。確かにCランクとしては手頃な相手かもしれませんが、数が多いと厄介ですわね。もし何か困ったことがあれば、私たちでよければ力になりますよ。遠慮なく声をかけてくださいね」
「ありがとうございます!」
ルーシィさんの申し出は心強かった。格上のパーティと繋がりができたのは、大きな収穫だ。別れ際に連絡先(ギルド経由での伝言方法など)を交換し、僕たちはそれぞれの依頼へと向かうことにした。
*
銀の百合の三人組と別れ、僕は改めて「ゴブリンロード討伐」の依頼書を手に取った。場所は深淵の森・中域。オークほどではないにせよ、油断はできない相手だ。
森へ向かい、前回よりも少しだけ自信のある足取りで中域へと進む。新しい剣は手にしっくりと馴染み、力が漲ってくるのを感じる。
【索敵】スキルでゴブリンの集落らしき場所を発見。木の陰から様子を伺うと、十数体のゴブリンが焚き火を囲んで騒いでいる。そして、その中央には、一回り体が大きく、粗末ながらも金属製の鎧のようなものを身に着け、棍棒ではなく歪んだ剣を持ったゴブリンがいた。あれがゴブリンロードだろう。
(手下が多いな…ロードを先に叩ければいいけど、そう簡単にはいかないか)
僕は【戦術思考】スキルを働かせる。ロードは手下に指示を出して連携してくるはずだ。なら、こちらも連携を崩すように動く。
【隠密】スキルで気配を消し、集落の外縁部から一体ずつ、確実に手下のゴブリンを仕留めていく。新しい剣の切れ味は抜群で、以前よりも格段にスムーズに敵を倒すことができた。
数体を片付けたところで、ついにロードに気づかれた!
「ギギィィィッ!」
ロードが甲高い声で指示を出すと、残りのゴブリンたちが一斉に僕に向かってきた!
(囲まれるな!)
僕はバックステップで距離を取り、迫りくるゴブリンたちを迎え撃つ!
複数の敵を同時に相手にするのは初めてではないが、今回はリーダーがいる分、動きに統制が取れていて厄介だ。
(そうだ、リズさんに教えた時の…!)
ふと、リリアの孤児院で子供たちと遊んだり、リズさんに護身術を教えたりした経験が頭をよぎる。【指導】スキルが、敵の指揮系統の弱点、つまりロードを集中して狙うべきだと教えてくれている気がした。
しかし、手下たちが壁となってロードを守っている。
(なら、こいつも!)
【剣術(応用)Lv.2】!
僕は剣を横薙ぎに振るう! それは単なる斬撃ではない。複数の敵を同時に牽制し、動きを止めるための払いのような動き!
【剣術(範囲攻撃) Lv.1】 (New!)
また新たなスキルが閃いた! この動きでゴブリンたちの足を止め、生まれた一瞬の隙をついて、僕はゴブリンロードへと突進する!
ロードは慌てて剣で防御しようとするが、その動きはオークに比べれば遥かに遅い!
(鎧の隙間は…ここだ!)
【構造解析】スキルで、粗末な鎧の弱点を見抜く! 新しい剣が、吸い込まれるようにその隙間へと突き刺さった!
「ギギィィィィ…ッ!?」
ゴブリンロードは断末魔の悲鳴を上げ、その場に崩れ落ちた。
リーダーを失ったゴブリンたちは、蜘蛛の子を散らすように逃げていく。僕は深追いせず、ロードの討伐証明(耳と持っていた剣?)を回収した。
「ふぅ…終わった」
Cランク冒険者としての初仕事は、無事に完了した。スキルの応用範囲がまた一つ広がり、新たな出会いもあった。僕の冒険は、確実に次のステージへと進んでいる。その手応えを、僕は強く感じていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。