第17話 確かな実績と、深まる森の謎
ロンダルキア鉱山の中層部。硬い岩盤に囲まれた薄暗い坑道で、僕は最後の一体となったロックリザードと対峙していた。既に四体を仕留めた後で、僕の体力も残り少なくなっていたが、集中力は途切れていなかった。
(動きは見切った…! 弱点は、腹部の鱗の継ぎ目!)
【構造解析】スキルによって浮かび上がる、敵の弱点。僕はそれを頼りに、ロックリザードの直線的な突進を【身体強化】したステップでかわし、懐へ潜り込む!
「グシャア!」
ロックリザードが鋭い爪を振り下ろすが、僕はそれを剣で弾きながら、がら空きになった腹部へ渾身の一撃を叩き込んだ!
【剣術(応用)Lv.2】!
【斬撃強化 Lv.1】!
ザクッ! と鈍い手応え。剣先は硬い鱗の隙間を正確に捉え、深く突き刺さる!
「ギャオオオオッ!」
断末魔の叫び声を上げ、ロックリザードはその場に崩れ落ち、動かなくなった。
「はぁ…はぁ…これで、五体目…!」
僕は剣を杖代わりに、荒い息をついた。硬い敵との連戦は骨が折れたが、それでもオーク斥候部隊との戦いを経た後では、対処法が分かっていた分、精神的な余裕があった。何より、【鍛冶】の知識から着想を得た【構造解析】スキルが、この戦いを有利に進める上で決定的な役割を果たしてくれた。
(これも、ボルガンさんのおかげだな…)
僕は師とも呼べるドワーフの顔を思い浮かべ、感謝の念を抱いた。
戦利品である硬い鱗と、比較的状態の良い魔石を【剥ぎ取り Lv.2】で手際よく回収する。依頼のノルマは達成した。
(さて、もう少しだけ…)
せっかくここまで来たのだ。僕は周辺の探索を続けることにした。ボルガンさんへのお土産になるような、良い鉱石が見つかるかもしれない。
【鑑定(鉱石)Lv.1】スキルを頼りに、壁を注意深く観察していく。鉄鉱石や銅鉱石は豊富に見つかる。しばらく進むと、壁の一部に鈍い銀色の輝きを発見した。
(これは…ミスリル鉱! しかも純度が高い!)
幸運にも価値の高い鉱石を見つけることができた。僕は持っていたピックで、慎重にいくつかの原石を掘り出す。【採掘 Lv.1】スキルのおかげで、作業は思ったよりもスムーズに進んだ。
さらに奥へ進もうとした時、僕は壁の一部に奇妙な違和感を覚えた。他の部分と比べて、明らかに石材の組み方が異なり、人工的な意匠が施されているように見える。
(なんだろう、これ…?)
近づいて【構造解析 Lv.1】スキルを使ってみると、やはりその壁は巧妙に隠された扉のような構造になっていることが分かった。そして、その隙間の向こうからは、ひんやりとした、古い空気と、何か強大な存在が眠っているかのような、言いようのない気配が漂ってくる…。
(古代遺跡…? それとも、もっとヤバい何かの封印…?)
好奇心は強く刺激されたが、同時に【危機察知】スキルが明確な警告を発していた。今の僕が足を踏み入れて良い領域ではない。
(またいつか、もっと強くなったら…必ず確かめに来よう)
僕はその場所を記憶に留め、鉱山を後にすることにした。この鉱山には、まだまだ多くの謎と可能性が眠っているようだ。
*
ロンダルキア鉱山街に戻り、ギルド支部で依頼完了の報告をする。
受付のドワーフは、僕が提出したロックリザードの鱗五枚と、質の良いミスリル原石を見て、目を丸くした。
「おいおい、兄ちゃん! 本当にやり遂げやがったのか! しかも上等なミスリルまで掘り当てるとは、運も実力もあると見える!」
彼は僕の肩をバンバンと叩きながら、他のドワーフたちにも聞こえるように言った。
「こいつ、フロンティアのボルガンの知り合いらしいぞ! あの頑固者が目をかけるだけのことはあるな!」
周囲のドワーフたちからも、「おお!」「やるじゃないか!」という称賛の声が上がる。初日に感じたよそ者への警戒心はすっかり消え、実力を認めた者に対する、カラッとした敬意が感じられた。
高額の報酬を受け取り、僕はドワーフたちに礼を言ってギルド支部を出た。
フロンティアへの帰りの馬車の中、僕は窓の外を流れる景色をぼんやりと眺めながら、この数日間の出来事を振り返っていた。硬い敵との戦い、新たなスキルの獲得と応用、ドワーフの街の活気、そして鉱山の奥に垣間見た古代の謎。どれもが僕を成長させてくれた、かけがえのない経験だ。
(着実に、前に進んでいる…)
その実感が、僕の心を確かな自信で満たしてくれていた。
*
数日後、僕はフロンティアの冒険者ギルドの受付カウンターに立っていた。
ロンダルキアでの依頼達成報告書を提出するためだ。
「おかえりなさいませ、カイト様。ロンダルキア支部からは既に連絡をいただいております」
エマさんは、以前のような探るような視線ではなく、穏やかで、どこか敬意すら感じられる表情で僕を迎えた。
「ロックリザード討伐、見事に達成されたとのこと、誠におめでとうございます。素晴らしい成果です」
「ありがとうございます、エマさん」
「銀露草の採集依頼と合わせ、これでCランク依頼の達成実績としては申し分ございません。推薦に関しましても…ギルドマスターは既に書類を準備されているようです。おそらく、近いうちに正式な決定が下されるでしょう」
「…! 本当ですか!?」
ついに、Cランクへの扉が開かれる。込み上げてくる喜びを抑えきれなかった。ポーター業務しかできなかった僕が、スキルに目覚め、努力を重ね、ついにCランク冒険者へ…。
僕の喜びように、エマさんもふわりと微笑んだように見えた。
「ええ。あなたの努力と才能が、ギルドに認められたということです。…本当によく頑張られましたね、カイト様」
その労いの言葉は、僕の胸に深く染み渡った。
僕がカウンターを離れると、周囲の冒険者たちの視線が集まるのを感じた。以前のような好奇や嘲笑ではなく、今は明らかに違う種類の視線だ。
「おい、カイトだ…」
「ロンダルキアのCランク依頼もクリアしたってよ…」
「信じられん成長速度だ…」
「俺たちもウカウカしてられねぇな…」
驚き、称賛、そして少しの焦り。彼らの見る目が、僕がもはや単なる「スキル無しのカイト」ではないことを物語っていた。僕は少し照れくささを感じながらも、その視線を真っ直ぐに受け止めた。これが、僕が掴み取った現実なのだ。
*
Cランク昇格が目前となり、僕の心は未来への期待で満たされていた。けれど、同時に、あの森の奥で感じた不穏な気配のことも、頭から離れなかった。
(昇格が決まる前に、もう一度だけ…)
僕は警戒心を抱きつつ、情報収集のために再び深淵の森へ向かうことにした。戦闘が目的ではないため、装備は軽装だ。【隠密】と【索敵】スキルを最大限に活用し、以前オーク斥候部隊と遭遇したエリアよりも、さらに奥へと慎重に足を踏み入れる。
森の奥は、やはり静まり返っているようでいて、どこか張り詰めた空気が漂っていた。強力な魔物の気配は以前よりも濃く、遠くからは時折、低い地鳴りのような音も聞こえてくる。
(何かが起きているのは、間違いない…)
そう確信した、その時だった。
背後、ではない。右後方、木の幹の影。左前方、茂みの奥。そして、頭上の枝葉の間からも。
複数の、研ぎ澄まされたような視線を感じた。
(…!? 前回よりも数が増えている…!? しかも、巧妙に気配を分散させて…!)
前回感じたのは、一つの明確な視線だった。しかし今回は違う。複数いる。それも、高度な【隠密】スキルを持つ者たちが、連携して僕を監視しているような、そんな嫌な感覚。まるで、包囲網を敷かれているかのように。
【索敵】スキルを最大にしても、相手の正確な位置を特定できない。気配は感じるのに、捉えきれない。それは、オークやロックリザードのような魔物とは明らかに異質な、知性を持った存在の気配だった。
(まずい…! これは、ただの監視じゃないかもしれない…!)
強い危険信号が、僕の脳内で鳴り響く。相手が何者で、目的が何なのかは分からない。けれど、これ以上ここに留まるのは危険すぎる。
僕は即座に踵を返し、全速力で森からの離脱を図った! 背後から追ってくる気配はない。しかし、あの複数からの監視の感覚は、まるで体にまとわりつくように、しばらくの間消えなかった。
フロンティアの街へ駆け込み、「木漏れ日亭」の自室に飛び込むまで、僕の心臓は激しく打ち続けていた。
(いったい、誰なんだ…? 何が目的なんだ…?)
Cランク昇格という輝かしい光が見えてきた一方で、森の奥深くでは、得体のしれない影が確実に動き出している。
僕の冒険は、新たなステージへと進むと同時に、新たな脅威との対峙を予感させていた。
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