第16話 鉱山の街と硬鱗の蜥蜴

銀露草の採集依頼を無事に終え、僕はギルドで次なるCランク依頼を探していた。

オーク斥候部隊討伐、銀露草採集…と、深淵の森での依頼が続いた。もちろん、森での経験はスキルアップに繋がるけれど、そろそろ違う環境での経験も積んでみたい。それに、オークとの戦闘はまだ少しトラウマというか、苦手意識が残っているのも事実だ。


そんなことを考えながら依頼掲示板を眺めていると、一枚の依頼書が目に留まった。


『依頼:ロックリザード討伐(推奨ランクC)』

『場所:ロンダルキア鉱山』

『内容:鉱山内に棲みつき、鉱夫に被害を与えているロックリザードを5体討伐。素材(硬鱗)はギルド買い取り可』

『依頼主:ロンダルキア鉱山ギルド』


ロンダルキア…確か、フロンティアから馬車で数日の距離にある、ドワーフが多く住む鉱山の街だ。ボルガンさんも、もしかしたらあそこの出身かもしれない。ロックリザードというのは聞いたことがない魔物だけど、鉱山という環境も、硬い鱗を持つという敵の特徴も、今の僕にとっては新しい挑戦になりそうだ。【鍛冶】スキルで得た知識が、何か役に立つかもしれない。


「よし、これにしよう」


僕はその依頼書を手に取り、受付のエマさんの元へ向かった。


「ロンダルキア鉱山でのロックリザード討伐依頼、ですね。承知いたしました」


エマさんは僕の選択に少しだけ驚いたようだったが、すぐに手続きを進めてくれた。


「カイト様、ロンダルキアへ行かれるのは初めてですか?」

「はい、そうです」

「そうですか。あそこはフロンティアとはまた違った活気のある街ですが、腕利きの冒険者も多い反面、少々気性の荒い方もいらっしゃいますので、お気をつけください」

「は、はい。気をつけます」

「それから、ロックリザードについてですが…」と、エマさんは端末で情報を呼び出しながら付け加えた。「記録によりますと、非常に硬い鱗を持つトカゲ型の魔物で、並大抵の攻撃は弾いてしまうそうです。ただし、腹部や四肢の関節部分は比較的装甲が薄いとのこと。弱点を的確に突くことが重要になるでしょう」

「腹部と関節…ありがとうございます、エマさん。助かります」


的確なアドバイスに感謝しつつ、僕はギルドを後にした。エマさんの僕を見る目は、依然として探るような色を含んでいるけれど、同時に的確なサポートをしてくれる。不思議な関係だな、と思いながら、僕はロンダルキアへの旅の準備を始めた。



数日後、僕は乗り合い馬車に揺られ、ロンダルキア鉱山街に到着した。

馬車を降りて街に足を踏み入れた瞬間、僕はその独特の雰囲気に圧倒された。


カンカン! ゴンゴン!


街のあちこちから、絶え間なく響き渡る槌の音。空気には石炭と金属の匂いが混じり合い、熱気が漂っている。道を行き交う人々の多くは、背が低くがっしりとした体格のドワーフたちだ。皆、顔や腕を煤で汚し、革のエプロンを身につけ、威勢の良い声を上げながら歩いている。フロンティアの、どこか雑多で自由な雰囲気とは全く違う、力強く、規律だったようなエネルギーに満ちている街だ。


(すごい…これが、ドワーフの街…)


僕は少し気圧されながらも、まずはギルド支部へ向かい、依頼の登録を済ませた。フロンティア支部からの紹介状があったおかげで、手続きはスムーズに進んだ。

次に、鉱山の情報を集めるために、鉱夫たちが集まるという酒場へ足を運んでみた。


酒場の中も、やはりドワーフの割合が高く、むっとするような熱気と酒の匂いで満ちていた。僕のようなヒョロっとした人間の若者はかなり浮いているようで、あちこちからジロジロと値踏みするような視線を感じる。


意を決して、カウンターで一人酒を飲んでいたドワーフの鉱夫に声をかけてみる。


「あ、あの、すみません。ロックリザードについて、少しお話を伺えませんか?」

「んあ? なんだ、ヒョロい人間の兄ちゃんが。ロックリザードだと? あんたみてぇなのが手を出せる相手じゃねぇぞ。やめときな」


ドワーフは僕を一瞥し、吐き捨てるように言った。やはり、よそ者には厳しいらしい。


「いえ、ギルドから正式に依頼を受けてきたんです。それで、少しでも情報を集めたいと…」

「ふん、ギルドの依頼か。物好きもいたもんだな。まあいい、少しなら教えてやらんでもない」


僕はドワーフに礼を言い、一杯奢る形で話を聞かせてもらった。ロックリザードは鉱山の比較的浅い層から中層にかけて出現し、硬い鱗で鉱石を砕いて食べるらしい。動きは直線的だが突進力があり、尻尾での薙ぎ払いも強力だという。そして、やはり鱗の硬さは相当なもので、並の剣では傷一つ付けるのが難しい、と。


「ボルガンさん…フロンティアにいる鍛冶師のボルガンさんを知り合いから紹介されて、ここに来たんです」


ふと、ボルガンさんの名前を出してみると、ドワーフの表情が少し変わった。


「ほう? あの頑固一徹のボルガンの知り合いだと? そりゃあ珍しいこともあるもんだ! なんだ、早く言わんか!」


ドワーフは急に機嫌を良くし、周りの仲間にも「おい、こいつボルガンの知り合いだそうだぞ!」と声をかけた。すると、さっきまで僕を警戒していた他のドワーフたちも、「なんだと!」「あの偏屈じじいの知り合いか!」と、少し態度を軟化させてくれた。ボルガンさんの名前は、ここロンダルキアでもかなり有名らしい。


おかげで、その後は比較的スムーズに情報を集めることができた。どうやらロックリザードは、特定の鉱石が発する微弱な魔力に引き寄せられる習性があるらしい。それを知っていれば、遭遇場所もある程度予測できるかもしれない。


十分な情報を得て、僕は酒場を後にした。ドワーフたちの気風は荒いが、一度懐に入れば、意外と面倒見が良いのかもしれない。



翌日、僕はついにロンダルキア鉱山ダンジョンへと足を踏み入れた。

ひんやりと湿った空気が漂う坑道は、天然の洞窟と、ドワーフたちが掘り進んだ人工の通路が複雑に入り組んでいる。壁には様々な鉱石が剥き出しになっており、松明の明かりを受けてキラキラと輝いていた。


【鑑定(鉱石)Lv.1】


スキルを使うと、鉄鉱石、銅鉱石、そして時折ミスリル鉱の原石などが認識できる。さすがは鉱山の街だ。


僕は鉱夫たちから聞いた情報と【索敵】スキルを頼りに、ロックリザードが出現しやすいというエリアへと慎重に進んでいく。狭い通路が多く、足元も不安定だ。時折、コウモリのような魔物や、小さな鉱物系の虫などが現れるが、今の僕の敵ではなかった。


しばらく進むと、少し開けた空間に出た。壁一面に、青みがかった鉱石がびっしりと埋まっている。そして、その鉱石をかじるようにして、岩のような質感のトカゲ型の魔物が数体、蠢いていた。


(あれが、ロックリザード…!)


体長は2メートルほど。全身がゴツゴツとした灰色の鱗に覆われており、見るからに硬そうだ。僕の接近に気づくと、低い唸り声を上げ、赤い目でこちらを睨みつけてきた。数は三体。


(よし、やるぞ!)


僕は剣を抜き、一体に狙いを定めて突進した! まずは、セオリー通り腹部を狙う!


【剣術(応用)Lv.2】!


素早く懐に潜り込み、下から掬い上げるように剣を振るう!


キィィン!


しかし、甲高い金属音と共に、剣は硬い鱗に弾かれた! わずかに傷は付いたようだが、ダメージはほとんど通っていない!


(硬い…! エマさんの言った通りだ!)


ロックリザードが、弾かれた僕に向かって突進してくる! 僕は咄嗟に横へ跳んで回避。そのまま、もう一体の関節部分、前脚の付け根あたりを狙って斬りつける!


ガキンッ!


これも硬い! 弾かれはしないものの、剣が深く食い込まない!


「グシャアア!」


ロックリザードが怒りの声を上げ、長い尻尾を鞭のようにしならせて薙ぎ払ってきた!


(危ない!)


【受け流し】! 剣で尻尾を受け流すが、その重さに体ごと持っていかれそうになる!


(くそっ、ただ弱点を狙うだけじゃダメか…!)


僕は距離を取り、冷静に相手を観察する。【戦術思考】スキルを働かせ、突破口を探る。硬い鱗…金属のような硬さだ。金属…そうだ、ボルガンさんのところで学んだこと!


(金属には、構造的な弱点があるはずだ! 鱗と鱗の繋ぎ目、あるいは鱗自体の模様…流れのようなものがあるはず…!)


【鑑定(道具)Lv.1】の応用か、あるいは新たなスキルか…僕はロックリザードの鱗の表面を凝視し、その構造を見極めようとした。


【構造解析(低) Lv.1】 (New!)


(これだ!)


頭の中に、鱗の構造と、力が集中しやすい箇所、逆に脆い箇所が、まるで設計図のように浮かび上がってきた! 弱点は腹部や関節だけじゃない。鱗そのものにも、攻撃を通しやすい「ライン」が存在する!


僕は再びロックリザードに接近する。突進をギリギリでかわし、解析した弱点…鱗の僅かな隙間、あるいは模様の流れが集中する一点を狙って、剣を突き出した!


【筋力強化(中) Lv.1】 (New!)

【斬撃強化 Lv.1】 (New!)


攻撃に特化したスキルが、まるで僕の意図に応えるかのように発動する! 全体重を乗せた一撃!


ザクッ!


今までとは明らかに違う手応え! 剣先が、硬い鱗を貫通し、内部の肉へと達した!


「ギャオオオオッ!」


ロックリザードが、今までで一番大きな苦痛の声を上げる!


(いける!)


確かな手応えに、僕はさらに畳み掛ける! 解析した弱点を次々と突き、斬りつけ、確実にダメージを与えていく! 硬い鱗も、弱点を知れば怖くない!


他の二体も同様に、鱗の構造を見極め、的確に弱点を突くことで、一体ずつ着実に仕留めていった。


「はぁ…はぁ…やった…!」


三体目のロックリザードが動かなくなったのを確認し、僕はその場に座り込んだ。オーク戦ほどではないが、硬い敵との戦いは神経を使った。けれど、鍛冶の知識とスキルが戦闘に応用できたという事実は、僕に新たな自信を与えてくれた。


討伐数はこれで三体。依頼のノルマは五体だから、あと二体だ。

僕は戦利品である硬い鱗を数枚剥ぎ取り(これも【剥ぎ取り】スキルのレベルアップに繋がったようだ)、鉱山のさらに奥へと足を進めた。新たなスキルと知識が、僕の道を切り拓いてくれるはずだ。

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