第14話 三体のオークと、変わる視線

オーク斥候部隊、三体。その気配を木陰から捉えた瞬間、僕の全身に緊張が走った。一体だけでも死闘を演じた相手だ。それが三体。真正面からぶつかれば、前回以上の苦戦は必至だろう。


(やるしかない…! 事前のシミュレーション通り、奇襲で数を減らす!)


僕は深く息を吸い込み、【隠密】スキルを最大限に発動させる。音を殺し、気配を消し、風下に回り込みながら、ゆっくりとオークたちの背後へと接近していく。心臓の音がやけに大きく聞こえるが、不思議と冷静だった。やるべきことは分かっている。


三体のオークは、互いに少し距離を置いて周囲を見張っているようだった。幸い、こちらにはまだ気づいていない。連携が取れていない今のうちに、一体を確実に仕留める!


狙いを定めたのは、一番手前にいた、少し小柄なオークだ。僕は地面を蹴り、音もなくその背後へと躍り出た!


オークが僕の気配に気づき、驚いたように振り向く。しかし、もう遅い!


【剣術(応用)Lv.1】!

【身体強化(微弱)Lv.2】!


僕は体重を乗せ、渾身の力を込めて剣を突き出した! 狙うは無防備な首筋!


グシャッ!


鈍い音と共に、剣がオークの硬い皮膚を貫き、深々と突き刺さる! 手応えは十分!


「ゴ…ア……」


オークは短い呻き声を上げ、その場に崩れ落ちた。ほぼ一撃。奇襲は見事に成功した!


「「グオオオオオッ!!」」


しかし、同時に残りの二体のオークが、仲間の死と僕の存在に気づき、怒りの咆哮を上げた! 地響きのような雄叫びと共に、巨大な棍棒と手斧を構え、僕に向かって突進してくる!


(よし、予定通り!)


僕は一体目を仕留めた勢いのまま、すぐさま二体目のオークへと意識を切り替える。三体同時は無理でも、二体なら…いや、一体ずつ確実に仕留めれば勝機はある!


【索敵】スキルで二体の動きを把握しつつ、開けた広場を動き回る。狙いは、棍棒を持った大柄なオークだ。手斧持ちの方が動きは速そうだが、まずはパワーのある方を警戒しつつ、攻撃を集中させる。


棍棒オークが、力任せに棍棒を振り下ろしてきた!


(誘いに乗るな!)


僕はその攻撃を【受け流し】でいなそうとはせず、ステップワークで回避する。前回、受け止めて腕をやられた教訓だ。【身体強化】で加速した動きは、オークの攻撃を紙一重で見切ることを可能にしていた。


空振りしたオークの体勢がわずかに崩れる。その隙を見逃さない!


【剣術(応用)Lv.1】!


僕は素早く踏み込み、オークの脇腹に斬撃を叩き込む!


「グギャッ!」


浅いが、確かなダメージを与えた。しかし、すぐに手斧オークの攻撃が横から迫る!


【危機察知】スキルが警告を発する! 僕はバックステップで距離を取り、手斧を回避。二体のオークが、じりじりと僕を追い詰めるように距離を詰めてくる。


(まずい、囲まれると厄介だ…!)


僕は広場を大きく使い、二体のオークを引き離すように動き回る。一体の攻撃をかわしつつ、もう一体にカウンター気味に攻撃を入れる。まるで、踊るような、危険な綱渡りのような戦い方だ。


けれど、不思議と恐怖はなかった。むしろ、自分のスキルが、自分の体が、状況に合わせて最適に動いてくれているという感覚があった。思考が極限までクリアになる。


棍棒オークの攻撃をフェイントで誘い出し、空振りさせて体勢を崩す。そこへ踏み込み、関節部分を狙って剣を突き入れる!


「ゴアッ!」


鈍い悲鳴。オークの動きが明らかに鈍る。


そこへ手斧オークが突っ込んできた!


(今だ!)


僕はあえて手斧を受け流す(パリィ)! 【剣術(応用)】スキルが発動し、相手の力を利用して手斧の軌道を逸らす!


ガキンッ!


甲高い金属音と共に、手斧が地面に弾かれる。体勢を崩した手斧オーク!


僕はその隙を逃さず、まず動きの鈍った棍棒オークにとどめを刺す! 心臓を一突き!


「グルオォ…」


棍棒オークが、ゆっくりと倒れ伏した。


残るは一体! 手斧オークだ!


「グオオオオオッ!!」


仲間を二人も殺された怒りで、手斧オークは完全に我を忘れているようだった。目を血走らせ、手斧を滅茶苦茶に振り回しながら突進してくる! 動きは速いが、荒く、隙だらけだ!


【剣術(応用)Lv.1】→ Lv.2!


戦闘の最中に、またスキルがレベルアップした感覚! 相手の動きが、さらによく見える!


僕は冷静に相手の攻撃パターンを見極める。手斧のリーチは短い。懐に潜り込めば…!


突進してくるオークの脇をすり抜けるようにステップを踏み、カウンターで斬りつける! オークの腕に傷が入る!


「ギャアッ!」


怯んだオークに、僕は畳み掛けるように連続で剣を振るう! 受け流し、回避、そして的確な斬撃! オークの体に、次々と傷が増えていく。


そして、最後は大きく振りかぶったオークの隙をつき、がら空きになった胴体へ、渾身の力を込めて剣を突き刺した!


ズブリッ!


剣はオークの体を深々と貫き、その動きを完全に止めた。


「…………」


手斧オークが、ゆっくりと地面に崩れ落ちる。

三体目のオーク。ついに、斥候部隊を全滅させたのだ。


「はぁ…はぁ…はぁ…っ!」


僕は剣を杖代わりに、その場に膝をついた。息が激しく上がり、全身から汗が噴き出している。体力の消耗は激しい。けれど、前回オークと戦った時のような、満身創痍というほどのダメージは負っていない。


(やった…! 勝てた…!)


しかも、今回は戦略的に動き、スキルを連携させ、確実に相手を仕留めることができた。前回とは違う、確かな手応えと成長の実感が、僕の心を強い達成感で満たした。



しばらく休息を取った後、僕はオーク三体分の素材回収に取り掛かった。

牙、皮、そして魔石。単体のオークから得たものよりも、心なしか質が良い気がする。特に魔石は、三つともずっしりと重く、魔力を帯びているのを感じた。


【剥ぎ取り Lv.2】のスキルのおかげで、作業は前回よりもスムーズに進んだ。手際よく素材を袋に詰めていく。


ふと、オークが落とした粗末な手斧が目に入った。何の気なしにそれを手に取ってみる。


(これも、武器…だよな)


【武器知識(斧) Lv.1】 (New!)


(えっ!?)


また新しいスキルが生まれた! 武器に触れただけで、その武器に関する知識が得られるのか?


さらに、オークが身につけていたボロボロの腰袋を調べてみる。中には、何かの骨のかけらと、奇妙な模様が描かれた石が入っていた。


(これは…何だろう?)


石を手に取ると、また頭の中に情報が流れ込む。


【鑑定(道具) Lv.1】 (New!)

【名称:オークの呪護石(品質:低)】

【効果:オーク族に伝わるお守りの一種。気休め程度の魔除け効果があるかもしれない】


(鑑定スキルまで…! しかも、鉱石限定じゃなくて、道具にも使えるのか!)


【自動学習】の多様性に、僕はもはや驚きを通り越して、感心すら覚えていた。経験すればするほど、世界が広がっていく。


戦利品の回収を終え、満足感に浸っていた、その時だった。

森の、さらに奥深くの方から――


ズン……ズン……


微かな、しかし確実に、地面が揺れるような感覚。そして、今まで感じたことのない、濃密で、不穏な魔物の気配を【索敵】スキルが捉えた。


(なんだ…? この気配…オークじゃない…もっと、何か巨大な…)


背筋に、ぞわりと悪寒が走る。森の奥で、何かが動き出している…?森の奥にはオークの集落があるはず。そこか?それとも・・・。



(今日は、もう深入りすべきじゃないな…)


僕は自分の勘を信じ、今日の成果を持って森を引き上げることに決めた。目的のオーク斥候部隊は倒したのだ。欲張る必要はない。



森を抜け、フロンティアの街へと戻る。来た時とは違い、背中の袋はずっしりと重い。オーク三体分の素材は、かなりの重量だ。けれど、僕の足取りは軽かった。


ギルドの扉を開けると、昼過ぎの時間帯ということもあり、多くの冒険者で賑わっていた。僕が中に入ると、一瞬、空気が静まり返ったような気がした。そして次の瞬間、ざわめきが起こる。


「おい、カイトだ!」

「戻ってきたぞ! あの格好…まさか、本当にオークを…?」


僕の姿と、背中の大きな袋を見た冒険者たちが、信じられないという表情で囁き合っている。以前の僕を知る者ほど、その驚きは大きいようだ。


僕はそんな視線を浴びながらも、今度は少しだけ胸を張って、受付カウンターへと向かった。エマさんが、目を丸くして僕を見ている。


「エマさん、依頼、達成しました」


僕はカウンターの上に、オーク三体分の討伐証明(耳)と、回収した素材が入った袋を置いた。


「か、カイト様…!? これは…本当に、オーク斥候部隊を…? お一人で!?」


エマさんの声は上ずり、いつも冷静な彼女にしては珍しく、驚きを隠せないでいた。


「はい。なんとか」


僕は少しだけ微笑んで、そう答えた。

周囲の冒険者たちから、どよめきと、驚愕の声が上がる。


「マジかよ…!」

「一人でオーク三体を…!?」

「嘘だろ…あいつ、本当にDランクかよ…?」


嘲笑や憐憫の視線は、もうどこにもなかった。代わりに向けられるのは、驚き、畏敬、そしてほんの少しの嫉妬。


アレスさんの姿は、幸い見当たらなかった。彼がこの状況を見たら、どんな顔をするだろうか?


僕は周囲の反応に少し戸惑いつつも、確かな手応えを感じていた。

地道な努力と、この不思議なスキルがあれば、僕はもっと上に行ける。Cランクへの道が、今、はっきりと目の前に見えてきた気がした。

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