第13話 決意の準備と、森の試練
Cランクへの昇格――それが今の僕の明確な目標となった。
そのためには、エマさんが教えてくれたCランク依頼、例えば「オーク斥候部隊の討伐」を達成し、ギルドに実力を認めさせる必要がある。
オークは強い。一体相手ですら、あれだけの死闘を演じたのだ。それが三体となれば、正面からぶつかって勝てる見込みは薄いだろう。
(もっと、戦略的に戦わないと…)
僕は前回のオーク戦での反省を活かし、入念な準備と訓練を開始することにした。幸い、今の僕には【自動学習】によって得た多様なスキルがある。これらを上手く組み合わせれば、きっと勝機は見いだせるはずだ。
まずは装備の改善からだ。ボルガンさんの工房に入り浸り、鍛冶の手伝いを続ける傍ら、自分の装備にも手を加えることにした。
「ボルガンさん、この革鎧、もう少し補強したいんですが…」
「ふん、やっとその気になったか。いいだろう、そこの鉄屑を使って、自分でやってみろ。まずは衝撃を受けやすい胸と肩の部分じゃな」
ボルガンさんの指導を受けながら、僕は初めて本格的な防具の加工に挑戦した。【鍛冶(基礎)Lv.5】のスキルは、思った以上に役に立った。鉄屑を炉で熱し、金槌で叩いて薄く延ばし、革鎧の裏側に鋲で打ち付けていく。
カン、カン、カン…
工房に響く槌の音。集中して作業を進めるうちに、【金属知識(初級)Lv.1】や【温度管理(低)Lv.1】のスキルが活性化し、より効率的な作業方法が自然と頭に浮かんでくる。
(こうすれば、もっと強度を保ちつつ薄くできる…)
(この色になるまで熱してから叩けば、粘りが出るはずだ…)
試行錯誤を繰り返しながら、数時間かけて革鎧の補強を終えた。見栄えは相変わらず悪いけれど、防御力は確実に上がったはずだ。腰の剣も念入りに研ぎ直し、シルヴィアさんから買った万能オイルをたっぷりと塗り込んでおく。さらに、森での活動を考え、投げナイフ代わりに使えそうな小型ナイフの刃も研いでおいた。これは【鍛冶】スキルの応用だ。
次に、戦闘訓練だ。複数の敵を同時に相手にする状況を想定し、工房の裏庭で仮想敵との立ち回りを練習する。ただ闇雲に剣を振るうのではない。【剣術(応用)Lv.1】を意識し、ステップワークで敵の攻撃をかわし、フェイントで相手の注意を引きつけ、パリィ(受け流し)からの素早い反撃を繰り出す練習を繰り返す。
(一体を引きつけ、その隙にもう一体を攻撃する…)
(囲まれたら、まず一体を素早く無力化して数を減らす…)
【索敵】で周囲の状況を把握し、【隠密】で気配を消して有利な位置を取るシミュレーションも行う。戦闘スキルだけでなく、探索スキルや、もしかしたら【指導】スキルで得た俯瞰的な視点も組み合わせることで、より効果的な戦術が組み立てられるのではないか?
そんな風に思考を巡らせていると、頭の中に新たな感覚が芽生えた気がした。
【戦術思考(初級) Lv.1】 (New!)
(やっぱり…! 考えること自体も、スキルになるんだ!)
【自動学習】の可能性の広大さに、僕は改めて驚きと興奮を覚えた。この力があれば、僕はもっともっと成長できる。
*
数日間の準備と訓練を経て、僕は少しだけ息抜きも兼ねて、久しぶりにリリアさんの教会にある孤児院を訪れることにした。オーク戦で負傷した際に、彼女や子供たちの顔が思い浮かんだからだ。僕にとって、彼らは守りたい大切な存在であり、心の支えでもあった。
「カイトさん! よく来てくださいました!」
僕の姿を見つけると、リリアさんがぱあっと顔を輝かせて出迎えてくれた。彼女の後ろからは、元気な子供たちがわらわらと飛び出してきて、僕の周りを取り囲む。
「カイト兄ちゃんだー!」
「遊ぼー!」
「この前はありがとう!」
子供たちの純粋な笑顔と歓声に、張り詰めていた心がふっと和らぐのを感じた。
「こんにちは、リリアさん。子供たちも元気そうだね」
「はい、おかげさまで。カイトさんがこの前くださった食料やお金で、みんなお腹いっぱい食べられています。本当にありがとうございます」
リリアさんは深々と頭を下げた。その感謝の言葉が、僕の胸を温かくする。
「それから…カイトさん、最近とてもご活躍されているそうですね。ギルドの方から少し噂を聞きました。ウルフをたくさん倒されたとか…」
「あ、いや、それは…たまたま運が良かっただけですよ」
僕が照れてごまかすと、リリアさんはくすくすと笑った。
「ふふ、ご謙遜を。でも、なんだか以前よりもずっと…たくましくなられたような気がします。自信に満ちているというか…」
「そ、そうですか?」
「はい。とても素敵だと思います。…でも、どうか、ご無理だけはなさらないでくださいね。あなたの身に何かあったら、私…私たち、とても心配ですから」
真っ直ぐな瞳でそう言われ、僕はドキッとした。彼女の純粋な心配が、心に深く響く。
「…ありがとうございます、リリアさん。気をつけます」
その後、僕は子供たちとしばらくの間、鬼ごっこやかくれんぼをして遊んだ。子供たちの体力は無限大で、すぐに息が上がってしまったけれど、【持久力向上】スキルのおかげか、以前よりは長く付き合えた気がする。これも訓練になるのかもしれないな、なんて思った。
遊び疲れて休憩していると、孤児院の庭にある木製の柵が一部壊れているのに気づいた。
「あそこ、危ないですね。僕でよければ、直しましょうか?」
「えっ、いいんですか? でも、カイトさん、お疲れでしょうに…」
「大丈夫ですよ。ボルガンさんのところで、少しだけ鍛冶を教えてもらっているので」
僕は工房から借りてきた簡単な道具と、余っていた木材を使って、柵の修理に取り掛かった。【鍛冶(基礎)Lv.5】のスキルは、こういう時にも役立つ。釘を打ち、木材を削り、歪みを直す。子供たちが興味津々に周りを取り囲んで見守る中、僕は黙々と作業を進めた。
「わー! カイト兄ちゃんすごい!」
「もうグラグラしない!」
「ありがとう、カイト兄ちゃん!」
修理が終わると、子供たちが歓声を上げて喜んでくれた。リリアさんも、「本当に助かりました。ありがとうございます、カイトさん」と、心からの笑顔を見せてくれた。
(誰かの役に立てるって、嬉しいな…)
戦闘で強くなることだけが、力の証明じゃない。こうして、自分のスキルで誰かを助け、笑顔にできる。そのことが、僕の自己肯定感を、また少しだけ育ててくれた気がした。
守りたいものがあるから、強くなりたい。その気持ちが、Cランク依頼への決意をさらに固いものにしてくれた。
*
そして、決行の日。
僕は万全の準備を整え、再び深淵の森・中域へと足を踏み入れた。
前回訪れた時よりも、心なしか森の空気は重く、魔物の気配も濃密になっている気がする。けれど、僕の心に恐怖はなかった。あるのは、適度な緊張感と、自分の力を試したいという強い意志だけだ。
【索敵】スキルで周囲の気配を探り、【隠密】スキルで存在感を消しながら、慎重に森の奥へと進んでいく。オークの斥候部隊は、おそらく森の主要な通路や、開けた場所を見張っている可能性が高い。僕はあえて獣道のような、見通しの悪いルートを選んで進んだ。
(いた…!)
しばらく進んだところで、【索敵】スキルが複数の気配を捉えた。数は三つ。間違いない、オークだ。
僕は近くの木陰に身を潜め、息を殺して様子を伺う。
少し開けた場所に、やはり三体のオークがいた。それぞれ棍棒や手斧を手に持ち、周囲を警戒するように立っている。一体だけでもあれだけの強さだったのだ。三体同時となれば、まともにやり合っては勝ち目はないだろう。
(事前のシミュレーション通り…奇襲をかける!)
僕は風向きを確認する。幸い、風はこちらからオークたちの方へ吹いている。僕の匂いが届く心配は少ない。地形も利用できる。オークたちのいる場所は少し窪地になっており、僕がいる場所からは死角になっている部分が多い。
(いける…!)
僕はゆっくりと、音を立てないように慎重に、オークたちに近づいていく。【隠密】スキルを最大限に発動させ、自分の気配を極限まで消す。心臓の音が、やけに大きく聞こえる。
オークたちはこちらに全く気づいていない。三体はそれぞれ少し離れた位置に立っており、連携しているようには見えない。これが斥候部隊だとしても、油断しているのだろうか?
(一番近い、あいつから!)
僕は目標を定め、息を深く吸い込んだ。そして、地面を蹴った!
音もなく、影のようにオークの背後へと回り込む!
オークが、僕の接近に気づいたように振り向いた。しかし、もう遅い!
【剣術(応用)Lv.1】!
僕は渾身の力を込めて、オークの無防備な首筋目掛けて、剣を突き出した!
Cランクへの最初の試練が、今、始まった!
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