4章 月光の導きとランクへの道

第12話 スキルという名の道標

オークとの死闘から数日、僕は「木漏れ日亭」の自室で、ひたすら体を休めていた。

あの戦いで負った傷は深く、全身打撲に加えて肩の骨にもヒビが入っていたらしい。普通の冒険者なら、全治一ヶ月はかかるところだろう。けれど、僕には【自己治癒(微弱)Lv.1】のスキルがあった。


このスキルのおかげで、驚くほどの速さで体は回復に向かっていた。完治とはいかないまでも、数日寝込んだだけで、普通に歩き回れるくらいにはなっている。スキルという存在が、いかに常識外れのものかを改めて実感させられた。


ベッドの上で体を起こし、僕は自分の内にある「力」について、改めて整理してみることにした。もう、気のせいや偶然だと誤魔化す段階は過ぎた。僕には、経験に応じて成長する、特別なスキルがあるのだ。


(僕が今、使えるスキル…)


頭の中で、これまでに自覚したスキルを一つ一つリストアップしていく。


まず、戦闘に関係するのは…

【剣術(基礎)Lv.3】基本的な剣の扱い。オーク戦でレベルが上がった気がする。

【剣術(応用)Lv.1】オーク戦で閃いた、より実践的な動き。カウンターとかフェイントとか。まだレベルは低い。

【身体強化(微弱)Lv.2】筋力や瞬発力を一時的に高める。これもオーク戦で上がったはずだ。

【受け流し Lv.1】父の指南書で覚えた型。これも熟練度が上がっている感覚がある。レベル表記が見えたかは曖昧だけど、これもスキルの一種だろう。

【自己治癒(微弱)Lv.1】今回、本当に助けられた。怪我の治りを早めてくれる。


次に、森を歩いたり、敵を探したりする時に役立つスキル。

【索敵(低)Lv.2】気配を探る力。これも森での経験で成長した。

【隠密(低)Lv.2】気配を消す力。オークに見つかったのは、まだレベルが低いからか、相手が強すぎたのか…。

【危機察知(低)Lv.2】危険を事前に知らせてくれる。何度も助けられた。


物を採ったり調べたりするスキルは…

【薬草知識(初級)Lv.2】薬草の種類や効能が分かる。癒し草を見つけた時にレベルアップした。

【剥ぎ取り Lv.2】魔物から素材を剥ぎ取る技術。オークからも剥ぎ取ったから上がったかな?

【鑑定(鉱石)Lv.1】月光石を見つけた時に覚えた。鉱石限定だけど、詳細な情報が分かるのはすごい。


そして、ボルガンさんのところで覚えた生産系のスキル。

【鍛冶(基礎)Lv.5】! これはかなりレベルが上がった実感がある。ふいごや槌の扱い、金属の基本的な加工。

【鍛冶(観察)Lv.4】ボルガンさんの技術を見て学ぶ力。これも重要だ。

【金属知識(初級)Lv.1】金属の種類や特性に関する知識。

【温度管理(低)Lv.1】炉の温度を調整する感覚。

【筋力制御 Lv.2】重いものを運んだり、細かい力加減をしたりする技術。


最後に、ちょっと変わり種だけど…

【指導(初級)Lv.1】リズさんに護身術を教えた時に覚えた。人に教えることで身につくスキルもあるのか。


それから、基本的な身体能力に関わるもの。

【持久力向上(小) Lv.3】ポーター業務やふいご操作で鍛えられた。

【筋力向上(小)】これもレベルは上がってるはずだけど、正確なレベルは分からないな…。


(こうして見ると、結構な数だ…)


我ながら驚いてしまう。数日前まで、自分をスキル無しの落ちこぼれだと思っていたのが嘘のようだ。これらのスキルは全部、僕が地道に続けてきた努力や、必死に乗り越えてきた経験から生まれたものなんだ。そう思うと、胸の奥が熱くなる。


(でも、まだ足りない…)


オーク一体に、あれだけの苦戦を強いられたのだ。もっと強くならなければ、ボルガンさんとの約束…月光石に見合う剣士になることも、スローライフの夢を叶えることもできない。


それに、月光石そのものについても、解決すべき問題がある。

「月光の下で精錬する」という特性。一体どうすればいいんだろうか?


僕は情報収集のために、再びギルドとシルヴィアさんの店を訪れることにした。



ギルドの資料室は、あまり利用者がいないのか、ひっそりとしていた。エマさんに頼んで(彼女は少し訝しげな顔をしたが、断りはしなかった)、僕は古い文献や素材に関する記録を閲覧させてもらった。


月光石に関する記述は、やはりほとんど見つからなかった。いくつかの古い伝承の中に、「月夜に輝く奇跡の石」といった曖昧な記述がある程度だ。精錬方法となると、皆無だった。


(やっぱり、ギルドの情報だけじゃ限界があるか…)


次に訪れたのは、シルヴィアさんの「迷いの森」だ。彼女なら、何か知っているかもしれない。


「まあ、カイトさん。体の具合はもうよろしいのですか? 大変なご活躍だったと伺っておりますわ」


シルヴィアさんは、僕の顔を見るなり、くすくすと笑みを浮かべた。僕のオーク討伐と月光石発見の噂は、既に彼女の耳にも入っているらしい。この街の情報網はどうなっているんだか…。


「おかげさまで、なんとか…。それよりシルヴィアさん、月光石の精錬方法について、何かご存じないでしょうか? 月光の下で精錬する必要があるらしいのですが…」


僕が尋ねると、シルヴィアさんは少し考える仕草をして、ポンと手を打った。


「月光石の精錬…確か、古いエルフの伝承にそれらしき記述がありましたわね。なんでも、『月の力が最も満ちる特別な夜、聖なる泉のほとりで、星屑の粉を触媒に用い、月光だけを熱源として行う儀式的な精錬法』…だったかしら」

「月の力が満ちる夜…聖なる泉…星屑の粉…?」


なんだか、一気にファンタジーな話になってきたぞ。


「ええ。ただ、その『特別な夜』がいつなのか、『聖なる泉』がどこにあるのか、『星屑の粉』が何なのか…肝心な部分は、失われてしまっているようですの。残念ながら」


シルヴィアさんは肩をすくめてみせた。結局、具体的な方法は分からないということか。


「そうですか…ありがとうございます」


がっかりしたが、それでも手がかりがゼロというわけではない。『月の力』『特別な場所』『特殊な触媒』。これらをヒントに、地道に調べていくしかないだろう。


「ふふ、気を落とさないでくださいな、カイトさん。失われた技術を探し出すのも、冒険の醍醐味というものですわ。その過程で、きっと面白い発見がありますことよ」


シルヴィアさんは励ますように言ってくれたが、その目は相変わらず楽しんでいるようだった。僕がこの難題にどう立ち向かうのか、見物したいのだろう。


(精錬方法は、長期的な課題になりそうだな…)


僕はひとまず月光石のことは頭の隅に置き、当面の目標を考えることにした。オークに勝てたとはいえ、あれはギリギリだった。もっと安定して戦えるよう、基礎能力とスキルレベルを底上げする必要がある。


(そのためには…やっぱり、Cランクを目指すのが一番だ)


Cランクになれば、受けられる依頼の幅も広がり、より強い魔物と戦う機会も増えるはずだ。それは、さらなるスキルアップに繋がるだろう。


僕はシルヴィアさんにお礼を言い、再びギルドへと向かった。



「お久しぶりですカイトさん。ここ数日ギルドで見かけませんでしたが、いかがされましたか?」


エマさんに、ここ数日、けがの回復に努めてギルドに顔を出していないことを、さりげなく聞かれた。


(まだ、オークを討伐したことは、ギルドには伝えていない・・・。月光石のことも伝えなくてもいいだろう)


「立て続けに、最近依頼を受けていたので、少し体を休めていました。」


と答えると、エマさんに今日ギルドに来た目的を伝えた。


「Cランクへの昇格条件、ですね?」


受付のエマさんは、僕の質問に少し意外そうな顔をしつつも、すぐに端末で情報を表示してくれた。


「DランクからCランクへの昇格には、いくつかの条件があります。まず、Cランク推奨の依頼を規定数、安定して達成すること。あるいは、オーク複数体の討伐など、Cランクに準ずる顕著な功績が認められること。そして最後に、ギルドマスター、またはBランク以上の冒険者2名の推薦が必要となります」


「推薦…ですか」


やはり、推薦が必要なのか。実績を積むのは当然として、推薦者を探すのが一番の難関かもしれない。アレスさんのような高ランク冒険者は僕を嘲笑うだろうし、他のBランク冒険者との接点も今のところない。バルガスさんに頼むのも、まだ気が引ける。


僕が悩んでいると、エマさんが不意に口を開いた。


「…カイト様」

「は、はい?」

「もし、本気でCランクを目指されるのでしたら…まずは地道にCランク依頼の実績を積んでいくのが、確実な道かと存じます」


彼女はそう言うと、いくつかの依頼書をピックアップして見せてくれた。


「例えば、こちらの『深淵の森・中域 オーク斥候部隊の討伐』。オーク三体を一組とする斥候部隊を複数、討伐する依頼です。まずは、単体で森を徘徊しているはぐれオークを討伐してみるのがいいと思いますが、分断させ、一体ずつ倒せていければ、不可能ではないかと。あるいは、こちらの『希少薬草・月見草の大量採集』。これも中域での採集依頼ですが、達成できれば高い評価が得られます」


エマさんの口調は事務的だったが、その内容は具体的で、僕の実力(彼女が把握している範囲での)を考慮してくれているように感じられた。


「これらのCランク依頼を複数、安定して達成することができれば、実績として認められ、推薦を得やすくなる可能性はあります。もちろん、危険は伴いますが」


「ありがとうございます、エマさん! すごく参考になります!」


彼女の助言は、暗闇の中で進むべき道を示してくれたように思えた。そうだ、焦る必要はない。一つ一つ、着実に実績を積み重ねていけばいいんだ。


「オークの斥候部隊…やってみます!」


僕は決意を固め、オーク斥候部隊討伐の依頼書を受け取ることにした。



その足で、僕はボルガンさんの工房を訪れた。月光石の報告と、これからCランク依頼に挑戦すること、そして剣の製作について話すためだ。


「おお、若造! 無事だったか! …ん? その石は…まさか!」


僕が袋から取り出した月光石を見て、ボルガンさんの目がカッと見開かれた。彼は慌ててルーペを取り出し、食い入るように月光石を観察し始めた。


「この輝き、この魔力の密度…間違いない! 月光石じゃ! 本物の月光石じゃぞ!」


ボルガンさんは、子供のようにはしゃぎながら、興奮した様子で叫んだ。


「しかも、森でオークまで倒してきたじゃと!? わっはっは! やはりお前は儂の見込んだ通りの、面白い若造じゃ!」


「なりゆきで・・・。死ぬかと思いましたが、何とか倒せました。」


彼は僕の肩をバンバンと叩き、心から称賛してくれた。その反応が、僕は何よりも嬉しかった。


「それで、ボルガンさん。この石で、剣を…」

「うむ! 約束は約束じゃ! この最高の素材で、ワシの生涯最高の一振りを打ってやる! …と言いたいところじゃが」


ボルガンさんはそこで言葉を切り、少し難しい顔になった。


「問題は、この石の精錬じゃな。月光石の精錬はドワーフの古の技の中でも秘中の秘。儂も文献でしか知らん。生半可な技術と設備では、この石の力を引き出すことはできんのじゃ」

「やっぱり、難しいんですね…」

「うむ。だが、諦めるのはまだ早い」


ボルガンさんは力強く言った。


「ワシにも、心当たりがないわけではない。古い伝承や、同族の古老に聞いてみる手もある。時間はかかるかもしれんが、必ず方法を見つけ出してやるわい!」

「本当ですか!?」

「ああ! だから、お前はその間、さらに腕を磨け! この月光石に見合うだけの、いや、この石で作った武器を使いこなせるだけの使い手にならねばならんぞ!」


ボルガンさんの言葉に、僕の心は再び奮い立った。


「それに…」と、彼は付け加えた。「この月光石を刀身に使うとなれば、柄や鍔など、他の部分にも相応しい素材が必要になるかもしれん。月光石の力を最大限に引き出すための、な。そちらも、頭の片隅に置いておくといい」


(他の素材も…)


課題は山積みだ。けれど、ボルガンさんが協力してくれるなら、道は開けるはずだ。


「はい! 分かりました! 僕、もっともっと強くなります! 鍛冶の腕も磨きます!」

「うむ、その意気じゃ!」


ボルガンさんは満足そうに頷き、僕の肩をもう一度力強く叩いた。

Cランクへの昇格、月光石の精錬、そして最高の剣。明確な目標が、僕の目の前に示された。


僕は工房での手伝いを再開した。槌を振るう腕に、以前よりも力がこもる。

月光石に見合う剣士になるために。そして、ボルガンさんの期待に応えるために。

僕の新たな挑戦が、またここから始まるのだ。

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