第9話

楽しそうな笑い声。


繋がれた手。


あどけない笑顔。



ずっと求めてた。


あの輪の中に入れたらって。



だってあまりに幸せそうに笑うから。

幸せそうに歩くから。


その後ろ姿が、あまりに羨ましかったから。



俺が子供の頃にできなかったことを、

俺がしてあげられたらって。



「ごめん…なさい」


「………」


「ごめんなさいっ…」


手で顔を隠して何度も謝る紫。


そっか。

紫は知ってるんだもんね。


俺に家族がいないこと。

ずっと1人だったこと。


俺は気付かなかったのに、紫は気づいてたんだね。


俺が、求めていたもの。



「紫」


「ごめんなさい…」


「紫、こっち向いて」



喪失感はある。


寂しさも悲しさもある。


子供と歩いたり、遊んだり、だっこしたり。

そんな夢が、叶わないと知った絶望感もある。



だけど、だけど、



「もういいよ…」


「っ……」


「もういいんだ」


未だに顔をあげない紫を、そのまま抱き締めた。

久しぶり…本当に久しぶりに抱き締めた。


思っていたより、ずっとずっと紫は細かった。



悔しいよ。子供ができないこと。


だけどもっと悔しいのは、紫の苦しみに気づいてあげられなかったこと。


きっと俺よりずっと苦しかったはず。

女の人にとってどれだけ傷つくことなんだろう。

それを俺に告げることは、どれだけ勇気のいたことだろう。


紫は気づいてくれてたのに。



――『何か探してるの?』



真っ先に、いつだって。

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