第8話

胸が苦しい。

張り裂けそうだ。


紫に触れたいと思った。


だけど、触れるのが怖かったからできなかった。


もう俺には、そんな権限…持ってなんかない気がしたから。



「ねぇ、集」


「………」


「誰と誰が別れるの?」


「…え」


「集、私と別れたいの…?」


俯かせていた顔をあげると、

今にも泣きそうな顔をした紫が俺をしっかりと見つめていた。


なんで…。



「違うの…?」


「違うよっ…」


「え、じゃあ何…」


「違うっ…」


「っ」


また。


また最低なことを言って泣かせてしまった。


傷つけてしまった。



「集っ…別れたいっ?」


また同じ質問をする。


昔からそうだ。

紫は答えを常に求める人だ。


図書室で会った時も、

俺に何を探してるのか何度も訪ねてきた。


俺もちゃんと一発で答えられたらいいのに。

いつも遠まわしでごめん。


ちゃんと答えるから。



「別れたくない」


「っ」


「別れたくないよ」



ちゃんと言う。



ちゃんと伝えるから。



それにちゃんと聞くから。



だから教えて。



紫のこと。



お願いだから、泣かないで。



「変な勘違いしてごめん。本当は何?話したいことって」


「っ…」


「大丈夫だから」



…やっと、手が動いた。

紫の頭に手を置いて、優しく撫でた。


紫の不安、全部取り除けるくらい優しく。




「…1週間くらい前に、病院に行ったの」


「病院…?」


「産婦人科」


「え…」


ってことは…。



「できたの…?」


「………」



その俺の言葉に、彼女はゆっくり首を横に振った。


複雑な気持ちになる。



「じゃあ、なんで…」


「私……、赤ちゃん…できないんだって」


「え…」


「できない体なんだって…」



――何で満たされる…?


やっとわかった。

自分が欲しかったもの。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る