第7話
「どこ行ってたの?」
「本屋」
「何か買ったの?」
「うん」
「そっか…」
単調な会話に、少し寂しそうに笑う紫。
その雰囲気が重くて、俺は別の話題を切り出した。
「そういえばさ、さっきなんか話があるとか言ってなかった?」
「え」
「何?」
「っ…」
紫の隣に静かに腰掛けて、紫を見た。
こんな風に正面で会話をするのはひどく久しぶりなような気がした。
静かで、空虚で、時計の針だけが焦らすように走っていた。
「話しずらいこと…?」
「…うん」
俺の質問に渋々頷く紫。
大体予想はつく。
ここ半年の状況は本当にひどかったから、きっと紫も呆れたんだろう。
当然の結果だ。
俺も、受け入れる自信はある。
だけどなんでだろう。
ぎゅっと作った拳の中の汗が止まらない。
変にドキドキする心臓が苦しい。
もう…なんで。
「しょうがないよね」
「え…?」
「だって俺、まったく紫の話聞いてあげられないし、優しくしてあげられないし、休日もベッドから出てこないし、紫に呆れられて当然だよ」
「え、何言って…」
「本当は気づいてたのに…。どんなに忙しくても眠くても、ちゃんと朝ご飯を作ってくれることも、俺の仕事のために早起きしてくれることも…俺のシャツにアイロンかけてくれることだって…」
「っ」
「ごめんっ…」
とにかくしゃべった。
なんでかはわからないけど。
嫌だった。
紫の口から何かを聞くのが。
だって怖い。
終わりが見える気がして。
ずるい。
ずるいんだけど…怖い。
どうして今になって紫の優しさが身に染みるの。
どうして紫の香りが愛しくなるの。
ねぇ、なんでよ。
「もし別れたとしても、ちゃんと紫の支えになるからっ…」
「っ」
「だから…」
言葉をつなげない。
頭の中で、フラッシュバックされるように紫との出来事が走り続ける。
嗚呼…思い出した。
せっかく買ったのに。
あの本の内容。
とても悲しい話だった。
大好きだった人が記憶をなくしてしまう話だった。
だけどとても優しい話だった。
本なんてそんなもんなかもしれないけど、最後にはハッピーエンドで、ちゃんとその人を、思い出すことができたんだから。
愛ってすごいって思ったんだ。
やっと、思い出した。
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