第6話

家は静かだった。


夕方でもう陽は沈みかけているのに、電気もついていなかった。


「さむ…」



リビングの電気をつけて、暖房を入れた。


紫はいないのかな。


マフラーを取りながら寝室へ入ると、そこもまた静かで人の気配はなかった。


…だけど気配がなかっただけで、紫はそこにいた。



ベッドの中で、静かに寝息を立てていた。


俺は寝室の小さな机の上にさっき買った本を置いて、音を立てないようにベッドの前に座った。



紫の寝顔を見たのは久しぶりだった。


紫はいつも早く家を出るし、帰りはいつも遅いから。


たまに早く帰ってきても、家で仕事をして家事もして…。




突き動かされるようにすっと紫の髪に手を当ててみた。




紫と出会ってもう10年近く立つけど、彼女は相変わらず綺麗だ。



だけどやっぱり歳はとるもので、前みたいに髪や肌にハリがなくなった気がする。

目の下にクマを作ってることも多い。


昔は紫の存在がでかくて、強く見えていたのに、

いつの間にこんなにか細くなって、弱く見えるようになってしまったんだろう。



この気持ちが、いつまで続くんだろう。



紫のことが好きな気持ちは変わらないはずなのに、

どうして冷たくしてしまうんだろう。


どうしてちゃんと話を聞いてあげられないんだろう。



紫を最初に求めたのは俺だったのに。


何で満たされる?

紫にどうしてもらったら満足する?


どうしたら、このマンネリした気持ちから抜け出せる?



ねぇ、俺ひどいよね。


今目の前にいる紫より、昔の紫を愛しているみたいに、

思い出にすがりつくように生きてるだなんて。


何も変わらないのに。


紫は紫なのに。




俺…、紫のこと好きじゃなくなっちゃったのかな……。





「ん…集…?」


「…うん」



目が覚めた紫から、ゆっくりと手を離した。



「…どした?」


「…別に」



そう言って立ちあがり、俺はマフラーと上着をハンガーにかけてクローゼットにしまった。



その間に紫は起き上がり、ベッドに座って俺を見ていた。

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