第15話
上手く言葉が出なかった。
別れてから一度も会ってなかった彼女。
1年前に久々に電話をして、しっかりと関係を絶った紗枝が今目の前にいる。
なんで。なんでこのタイミング。
倫隣にいるのに。
心臓うるさい。
傘を持っていた手が徐々に汗ばんでいく。
俺を見つけた彼女は少し複雑そうな顔をしたが、ゆっくり俺に近づいてきた。
「久しぶり…秋都」
「ひ、さしぶり…」
声が震えた。
目線は自然と、紗枝の手元に行く。
少しだけ膨らんだお腹が、俺たちがどれだけの時間会っていなかったかを物語っていた。
もう、紗枝と別れてから3年半も経っていた。
こうなることは、自然なことだった。
ちゃんと受け入れてた。
あの虹を見た日に、幸せそうな彼女が笑っている姿を、ずっとずっと願っていた。
「仕事中?」
「うん」
「そっか。うまくやってる?」
「うん。そっちも…元気そうで」
「お蔭様で」
穏やかに微笑む紗枝は、俺と付き合っていたときと遥かに印象が違っていた。
お腹をさする彼女は、もう立派な母親の顔をしていた。
「今6ヶ月なの」
「…そっか」
「うん」
紗枝との会話は、いつの間にこんなにぎこちないものになっていたのだろう。
お互いの知らないところで、お互いにたくさんのことを経験した結果こうなってしまったのなら、それは仕方のないことだ。
「紗枝、結婚したんだね」
「…うん」
「おめでとう」
その左手の薬指も、大事そうにさする新しい命も、きっとあの時紗枝の幸せを願った時点で、俺が望んだ結果だったはずだ。
「ありがとう」
…紗枝の笑顔を見ることは、きっともう二度とないだろう。
「そろそろ行くね」
そう言って携帯で時間を確認して手を振って去っていく彼女に、俺も手を振り返した。
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