第16話
紗枝の後姿が見えなくなるまでぼーっとしていたことに気づくのは、さっきまで一言もしゃべらず黙っていた倫が呼びかけられてからだった。
「やっぱ…巨乳っすね」
「…ふっ、バーカ」
「ねぇ秋都さん。私知ってるんすよ。秋都さんが携帯をスマホに変えない理由」
「………」
倫の声からはふざけているのか真面目に話しているのか、全然読み取れなかった。
ただただ胸の中に残る鈍い痛みに絶えることに必死で。
「あの人、もう幸せになってますよ」
――倫の言葉は、優しくて、残酷だった。
「だから何?」
「だから秋都さんもスマホに変えてください。そしてLINEのIDをあたしに教えてください」
「うわなにそれ」
「だって秋都さん、あの人のことちゃんと吹っ切れてるじゃないすか」
「っ」
紗枝のことを見送る俺の顔はとても清々しい表情をしていたと倫は言った。
驚いた表情で倫を見ると、彼女はいつものように目をぱちくりさせて笑った。
なんだか今日はやけにそれが可愛く思えた。
「今度は秋都さんが幸せになるんすよ。あの人の何十倍も何千倍も何万倍も」
――なんの根拠もないのに、まるで紗枝と同じようなことを言う。
紗枝とはまったく似つかない容姿をして、まったく違う性格をしているのに。
「ねぇ秋都さん、あたしのこと好きになってください」
「え」
「あたし、秋都さんのことなら幸せにできる自信ありますよ」
自信満々な表情で笑って、ぼさぼさな髪を片手でとかす彼女はいつもより女性らしく見えた。
その自信はどっからくるんだよ。
今までただの大食いじゃがりこ変人女だと思っていたのに。
本当…変わってる。
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