第5話

望んでた声。


紛れもなくそれは、2年半前に別れた彼女の声だった。





『秋都?』


「……ん」


『久しぶりだね』



ねぇ今俺、ちゃんと話せてる?頷けてる?息出来てる?


全然余裕ない。



俺だってわかったってことは、まだ番号…消さないでいてくれたの?



『さっき、電話してくれた?』


「…した」


『そっか。どうしたの?』



優しい声のトーンは変わらない。


じゃあ笑顔は?表情は?気持ちは?




変わってしまっただろうか。




「さっき電話でた人って…」



一番聞きたかったこと。


でも、一番聞きたくなかったこと。




『え、あぁ…。えっと…今の彼氏』


「…そう」



わかってたから。

それなのに聞いた俺は馬鹿だな。


でも、きっと優しい人なんだろう。


かけ直すことを、許してくれるんだから。



「突然ごめん」


『ううん。びっくりたけどね。なんかあったの?』


「全然…そんなんじゃないんだけど」



ただ単純に、声が聞きたくなっただけ。


忘れかけてた君の声が、懐かしく聞こえるのは、飽きるほど君といた証拠。



話したいことはたくさんあったはずなのに、

結局まともな会話ひとつ出てこないのは、本当に伝えたいことなんてたいしてなかったから。


時間が解決してくれることなんて、何もないと思ってた。



だけど違った。


時間が流れたから、俺たちはあの頃より少し大人になって今話せるんだ。



『秋都?』


「ん」



しばらく黙ったままの俺を心配する、彼女の声。


顔を見なくたって、なんとなく彼女の表情が浮かぶ。



想像の中だけど、なんだか少し微笑ましい。



2年半の時間を経た。


でもたったひとつ、伝えたいことは、あの時と変わってない。

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