第52話
―――――――……
「はい次、藤宮」
「はいっ」
地区大が終わって1ヶ月。
いつも通り、放課後の部活で私はアップの160センチのバーの前に立っていた。
アップ…と言っても、私にはアップじゃない。
だって私は、まだこの160センチを一度も跳んだことがない。
名前を呼ばれて、助走して、思い切り踏み込んで、体を反らせて、
それでもぎりぎりのところで、バーはマットの上に落ちてしまった。
「っ…」
何度やっても何度やっても、どうしても駄目だ。
落ちたバーを見つめていると、同じハイジャンのメンバーから大きなため息が聞こえる。
そして記録をつけている顧問からも、同じようなため息が漏れた。
「藤宮、ちょっとこっちにこい」
「は、はい!」
そんな顧問に呼ばれて近寄ると、部活の後話があると言われた。
またフォームが汚いとか言われてしまうんだろうか。
動画を撮って何度も見直してきてはいるんだけどな。
一体何がいけないのか、自分でもよくわからない。
もう、わからなくなってきた。
そして練習が終わり、顧問から言われた言葉は、予想とは反することだった。
「ハイジャンのフォームも踏み込みも悪くない。良くなってきてると思う」
「あ、ありがとうございます!」
思ってもみなかった褒め言葉に思わず頭を下げると、顧問はその言葉とは裏腹に深刻そうな顔を浮かべた。
「藤宮の2学期の体力テストの結果見たんだけど、お前の短距離のタイムは、陸上部の短距離の平均タイムを上回っていた」
「……え?」
「1学期ずっとお前を見てきてハイジャンの記録が伸びないのははっきり言って身長と、才能の問題だと俺は思っている」
「………」
「まだ1年生の2学期だ。これを機に、専門を短距離に変えてみるのはどうだ?」
「えっ…」
言葉が、でなかった。
ちょっと、待って、待ってよ。
今、よくなってきてるって言ってくれたのに。
「ここまで短距離の才能があるのに、無理してハイジャンを跳ぶ必要はない。中学と違って高校の部活は遊びで済まされない部分もでてくる」
「………」
「辛いことを言うが…ハイジャンの他の生徒から、藤宮のせいで練習が進まないという声も出ている」
「せんせ…」
「考えてみてはくれないか?」
待ってよ、先生。
私、遊びでやってたわけじゃないの。
いつだって本気だったの。
小さくても、誰より高くジャンプすればいいって。
才能がなくても、誰より努力すればいいって。
そう思って続けてきたのに。
「他の生徒のためにも」
そう言われてしまったら、頷くしかないじゃない。
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