第43話
――先輩のハイジャンを初めて見たのは中学1年生。
足が速かったからなんとなく入った中学の陸上部の県大会で初めて朝日先輩に出会った。
私はその頃短距離が専門で、まったくハイジャンに関しての知識はなかったけれど、注目の3年生がいるという話題で持ちきりだったその大会で先輩を知ることは必然的なことだった。
選手リストを見てこの人がそうだと先生に教えてもらったとき、最初に抱いた印象は“藤井朝日”という名前が、とても素敵だと思ったことだった。
なんとなく自分の名前に似ている感じがして、こんなに綺麗な名前で、ハイジャンでも活躍してて、私とはまったく別次元の人だと、ただそれだけで嫉妬した。
そして競技場に選手がでてきた瞬間、すぐにこの人が藤井朝日だとわかった。
大きな大会のはずなのにやけに余裕のある表情と、「朝日せんぱーい!!」という黄色い声。
この時すでに先輩は、もう高嶺の花だった。
そして彼が飛ぶ時、会場の空気が変わる。
助走をする表情も、踏み込む足も、宙を舞っている体も、着地した瞬間も、とても静かで…まるですべてが切り取られたように美しかった。
「っ――」
胸が、熱くなった。
嗚呼、なんて綺麗なんだろう。
なんて……。
私もこんな風になりたい。
こんな風に。
それからすぐに私は専門をハイジャンに変えた。
身長が低かった私は顧問にめちゃくちゃ反対されたけれど、それでもそれを押し切って無理矢理ハイジャンを飛んだ。
最初は1メートルも飛べなかった。
ジャンプも汚くて、先輩が遠くて遠くて、何度も諦めそうになった。
気持ちが落ち込みそうになるたびに、先輩のジャンプを思い浮かべた。
何度か練習をこっそりに見に行ったこともあったけど、先輩はその後すぐに引退してしまったから、本格的なジャンプが見れたのはあの時だけだった。
たった1度あのシーンが私のすべてを変えた。
ねぇ先輩。
これってすごいことなんだよ。
先輩が私の人生を、変えたんだよ――。
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