第39話

「えっ、と…紫乃ちゃんだっけ?」


「っ」




名前を呼んでもらえるだけでこんなに泣きたくなるなんて。


いつから憧れは、恋心に変わったのだろう。



「とりあえず俺、もうハイジャンはやってないんだよね」


「…知ってます。昨日の部活見学で聞きました」


「ああ、そういえばやってたね」


「でも陸上部入りました」


「………」


「最初は単なる憧れだったけど、今はハイジャン大好きだから」




先輩。


私は、先輩のタイプにはなれません。



筋肉ばかりついて女性らしい体にはならないし、部内のルールで髪は伸ばせないし、いつも汗臭いし。



先輩のタイプに近づけるよう頑張りたいけど、それより譲れないこともあって、でも先輩には好かれたくて。



こんな私は欲張りですね。

わがままですね。


…でもやっぱり譲れないんです。



だって私、先輩のことを見て…あんな風に綺麗で高いジャンプをしたいと思ったから。




「先輩、好きです」


「………」


「いいんです、わかってるんで。先輩のタイプ知ってますから」


「どこ情報」


「私先輩の弟さんと同じ中学だったんで」


「え、美景?」


「仲が良いわけじゃなかったですけど、先輩の弟さんだって聞いて、違うクラスなのに先輩の情報聞きにいきましたから」


「美景情報って大分適当だと思うんだけど」


「私!先輩と付き合いたいけど、でもいいんです!タイプ真逆だってわかってるし!」


「………」


「ただ、私頑張りますから。憧れるだけじゃなくて、先輩に認めてもらえるような選手になります」


「………」


「だから見ててほしいんです」



本当は、好きだということより、あなたを目標にしてたことの方を、私は伝えたかったのかもしれない。



だってあなたが私のこの気持ちを知っててくれることは、


これからの私の高みに繋がるような気がするから。




ただ、知ってくれるだけで、あなたを目標にしてここまできた私がいるってことを知ってくれてるだけで…私はもっともっと頑張れる。






「君、小さく見えるけど身長何センチ?」


「150ちょいしかないです」


「すごいね、それでハイジャンやってるなんて」


「まだ成長止まってないって思ってやってるし、高く飛べば身長なんて関係ないと思ってるんで」


「………」




先輩はゆっくり私に近づいてきた。


距離が縮まった瞬間、先輩から良い香りがした。



これは先輩からする香りだろうか。

それとも、先輩の近くにいる…年上の女性からうつった香りだろうか。



「確かに全然タイプじゃない」


「うっ…」



そんなドストレートにフラれるだなんて思ってなかったから、刺さるどころじゃなかった。

もう抜け殻…。


確かに付き合いたいわけじゃないって言ったけどさー!もうちょっと言い方ってもんがあるでしょ!!



「でも…名前負けしてるとか思わないよ。いい名前だし、とってもいい子そうだし」


「っ」



その時、初めて先輩の大きな手が、私の短い髪に触れて、頭に乗った。






「がんばれ」

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