第35話

「私藤井君のこと嫌いっ…」


「ああそうですか」


「でも一緒にいると安心する」


「………」


「失礼だし怖くて嫌なのに、そばにいてほしい」


「なにそれ。好きなの嫌いなの」


「わかんないっ」


「………」



そう言って零れる涙を拭っていると、いつの間にか藤井君が私の目の前にきていた。


綺麗な指で涙を優しく拭ってくれて、そのまま引き寄せられるように温かい香りに包まれる。



「じゃあわかったら、教えてください」



掠れた声でそう囁かれて、目を見開いているとゆっくりと体を離された。


そして少し笑いながら藤井君は言った。



「俺、その泣き顔は好きですよ」



…本当失礼だと思った。


でもその声が居心地よくて、思わず私も笑ってしまった。




“じゃあわかったら、教えてください”




きっともうその答えはでている。




だけどもう少しだけ悩ませて欲しい。



7年間で私は随分奥手になってしまったみたいだ。




29歳の私に、24歳のあなたは眩しすぎる。




だから少しだけ、時間をください。


“完璧”という殻をまとってしまった自分がもう少し、砕けるまで。



“生産性のない人生”に誇りを持てる自分になるまで。

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