第33話

「藤井君…なんで…」


「前に酔っ払った高山さんを送り届けたことあるんで」


「そうじゃなくて…なんでいるの?」


「痴漢された次の日に1人で帰るの怖いかなぁと思って銀座まで行ったんですよ。でも会えなかったから駅で待ってたんですけど、中々こないからもう家帰っちゃったのかと思って寄ってみました。そしたら高山さんが帰ってきたんで」


「………」


「俺高山さんの連絡先知らなかったし」


「………」


「ここじゃ意味ないですけどね」


「………」


「高山さん?」



藤井君の言葉が、いちいち胸に突き刺さる。


泣きそうだった瞳が、更に歪む。



「私、もう29だよ…怖くなんてないよ」


「あーそうですね」


「………」


「でも痴漢されたとき、震えてた」


「っ」



だから先輩に思えないんです。



そう言う藤井君は、本当に失礼な人だ。



でも私は、あの時助けてくれたのが藤井君でよかったと、心からそう思った。





「頑張ってる私が好きだって言ったのっ…」


「?」


「綺麗な私が好きだって。だから努力したの。人一倍…努力したの」


「………」


「私ね昔から前しか見えない人らしくて、そのせいで人の気持ちに鈍感で。愛想をつかされてることに気づいてあげられなかった」


「………」


「頑張りすぎちゃいけないこともあるんだって、そう思った」



でもそう思っていたら、今度はどうやったら頑張らない努力ができるのか、わからなくなってしまった。



どんどん欲張りになっていった。過剰になっていった。意地になっていった。



無理しか、できなくなっていた。



いつの間にか、完璧で固い女だと言われるようになってしまっていた。




年齢を理由に色んなことを諦めてきていたはずなのに、幸せになっていく同級生や同僚を見ていると、今の自分がどんどん惨めになっていく気がしていた。

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