第32話

暗い道を歩きながら色んなことを思った。



29になって変わらない毎日を送ることがとても幸せなことだと思った。

上司からも信頼されて、仕事もたくさんもらえて、色んなものを捨てて東京に出てきてよかったと本気で思った。



…でもそう思えるようになるのに、いつの間にか時間が経ちすぎていた。




私は知らず知らずのうちに色んなものを見失っていた。


大事なものを拾って生きてきたはずなのに、気づけば手のひらの中には、いらないものばかりで溢れていた。



痴漢されることが恥ずかしいと思った。


藤井君に言われて私は年齢にそぐわない格好をしていることに気づいた。



でもそれをやめられなくて、今日もこんなに派手なネイルや睫毛をして、ヒールの高い靴を履いて。




昔はどうだったっけ?



昔の彼氏が好きでいてくれた私ってどんなだったっけ?



いつの間にこんなにキラキラしなくなっちゃったんだっけ。


恋しないって、結婚しないって誰が言ったの。




1人で大丈夫って…誰が言ったの。




「私…全然大丈夫じゃないっ」





泣きたくて泣きたくて仕方がなくて、早く家へ入ろうとしたその時だった。




「独り言でかいですよ」




呆れた声で、そう言われたのは――。

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