第31話
――会社を出て駅の方まで歩いている途中、再び部長から電話がかかってきた。
『やーごめんね。メール送ってもらっちゃって』
「いえ」
『でさ、今から飲み会参加しない?高山さんがとってくれた居酒屋にいるから』
「私は…」
『じゃあ待ってるから』
そう言ってまた一方的に電話を切られてしまった。
幸いその居酒屋はすぐそこで、いまいち気乗りしなかったが少しだけ顔を出して帰ろうと思いそこへ向かった。
「お疲れ様です」
「お、きたねー。こっちこっち」
そこにいたのはほとんどが同じ部署の子たちばかりだった。
いないのは藤井君と、ほんの数名だけ。
取引先の人は少し前に帰ったらしく、部長が色んな人に電話をしてかき集めたらしい。
男女は同じくらいの人数がいて、端から見るとまるで合コンのようだった。
「高山さんこれどうぞ」
「あ、ありがとう」
後輩の男の子が私にビールを渡してくれる。
そしてその子に再び声をかけられた。
「あの高山さんって、彼氏いらっしゃるんですか?」
「え」
「いやあの、とっても綺麗だから…いるのかなぁって」
「あははっ馬鹿杉浦~!お前高山狙うなんて10年早いわ!!」
「え」
「高山は完璧女子なんだぞ?お前なんて相手にしないっつーの」
「で、ですよね」
部長は豪快に笑って私の肩を掴む。
杉浦君は完全に引いていた。
「綺麗過ぎて売れ残るなんて、可愛そうだよな~」
「っ」
「でも結婚しない恋人がいない恋愛に興味ない仕事一筋!そこが高山のいいところなんだよー、なあ高山」
「はは…」
“頑張ってる景子が好きだよ”
“綺麗な景子が好き”
“俺、遠距離は無理だわ”
“仕事だけしてろよ”
私は、完璧らしい。
…私は、いつの間にこんな女になったのだろう。
私が選ぶお店に失敗がないのは当然だ。
失敗しないよう送別会の開催が決まってからネットで何件もの居酒屋の口コミを見て回っているし、更に1人でそこへ行って下調べまでする。
お店の雰囲気、料理の味、お酒の種類。
すべてを把握した上で予約をいれているのだから。
「高山さんってなんの香水使ってるんですか?とってもいい香り」
いい香りがするのも当然だ。
何度も都内の店を往復して一番自分のお気に入りを探し回ったんだから。
若い頃から化粧品や肌の手入れには人一倍気を遣っている。
もともと化粧品を取り扱う会社だから特に苦ではなかった。
どの女性社員よりも、その男性社員よりも、色んなことに気を遣って生きている。
本当に、本当に。
「すみません。お先に失礼します」
私は体調不良を理由に一杯飲んでその場から立ち去った。
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