第26話

「おはようございます」


「おはよー高山さん。今日は一段と綺麗だね」


「あはは…」




いつもなら余裕で交わせるはずの部長の挨拶も今日はなんだか憂鬱だ。



ふと藤井君のデスクをみると、彼はやっぱり先に来ていて眠そうにしながらパソコンをチェックしている。


少し明るい茶髪はいつも無造作にセットされていて、身長もすらっと高くて、細身のスーツがよく似合う今時の男の子。



顔も整っていて仕事もそれなりにこなしてしまうから女性社員からの人気はいつも上位。



正直そんな藤井君と話したことはほとんどなかった。


彼の世話係は私ではなかったし、なんだか少しつんとしていて話しかけずらいタイプだったから。



でも苦手とか言ってられない。

ちゃんと朝のお礼を言わなければ。




「高山さん、これチェックしといて」


「はい」


「高山さん、会議室にお茶4つ」


「あ。はい」


「高山さん、この書類今日中に揃えておいて」


「…はい」




お礼を言わなければならない……それなのに、今日は一段と頼まれる仕事の量が多い。


もしかしたら今日は厄日なのかもしれない。


あんなに家を出るまでは順調だったのに。

昨日の夜、頑張ろうと行きこんで寝たばかりなのに。



「はぁ…」




1人きりになって漏れるのは、ため息ばかりだ。


休憩所でコーヒーを買ってベンチに座ると、遠くのほうから女の子の会話が聞こえてきた。




「ねぇ聞いた?営業の桜井さん、取引先の上田さんとデキてるらしいよ」


「えー嘘!玉の輿じゃん」


「でも桜井さんも27だし、そろそろ結婚意識してるんじゃない?」




「………」




今の私の人生は“生産性のない人生”だ。



入社した頃はなにもかもが輝いていた職場。


大変なこともたくさんあったけどそれ以上に自分が貢献できる喜びが嬉しかった。



できることはなんでも全力でやった。




別に誰のせいにするわけでもない。



ここまで仕事一筋になってしまったのは、そんな風に全力でやりすぎた自分のせいだ。



昔から、前しか見えない人だった。




だから人の気持ちに鈍感で、気づくことができなかった。




“仕事だけしてろよ”





私は、自分ことばっかりだった。

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