第25話

「え?」



思わず顔をあげると、私を呼んだのは私に覆いかぶさっていた彼だった。



痴漢から助けてくれたスーツの人。


それは同じ会社の藤井君だった。

藤井美景(フジイミカゲ)君…彼は2年前に入社したばかりの24歳。



つまり、私の後輩に当たる人物だった。



「藤井君っ?なんで」


「高山さんこそなにやってんすか」


「は?」


「その年で痴漢とか、犯人に同情します」


「…はっ?!」


「声でかいですよ」



藤井君は誰にも聞こえないくらい小さな声で話すのに、私はその言葉に反応して思わずまぬけな声がでてしまった。



本当に処理しきれない。


待って。

私はついさっきまでいつもと同じ朝を過ごしていて、たまたま女性専用車両に乗れなくて、この車両に乗って痴漢にあって助けられて。



それなのに助けられた藤井君にまさかそんなこと言われるだなんて。




「ほら降りますよ」


「わ」



藤井君に手を引かれて降りると、そこはもう銀座だった。



いつの間に着いていたのだろう。

藤井君がいなかったら私は多分乗り過ごしていたところだった。




唖然としているうちに藤井君はどんどん人の流れに沿って改札のほうへ行ってしまう。


あっという間に姿が見えなくなってしまった。




…一緒にいってくれるわけではなかったのか。



いつもどおり迎えるはずだった朝に、少しだけ変わった後輩の一面を見た。

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