第20話
「っい、ぶき…」
「もっと…」
「え…?」
「もっと…名前、呼んで」
「っ」
「月奈の、声聞きたい…」
「い…伊吹…」
「ん…」
「伊吹っ…伊吹伊吹伊吹…いぶきっ…」
「…顔見せて」
手解いて、そのくしゃくしゃな顔を両手で包むと、馬鹿みたいに涙が溢れた。
「ふっ…変な顔」
「伊吹こそっ…泣いてんじゃんっ…」
月奈の香りだった。
月奈の声だった。
月奈が目の前にいる。
「月奈、俺さ…熱、39度以上ある…」
「知ってるよ…朝日さんから聞いた」
「うつしたらごめん」
「ん…?」
「キスしていい?」
「っ」
――返事は聞かなかった。
唇から伝わった熱が熱すぎて、一体どっちの熱なのか、考える余裕もなかった。
頬を挟んだままの両手には、月奈と閉じた瞳から零れた涙が伝っていた。
それはまるで16年分の溜まっていた思いを流しきるかのように、止まることはなかった。
キスと、涙と、思いの、すべて。
唇を離すと、真っ赤に腫れて潤んだ瞳と目が合った。
16年一緒にいたけど、この表情は初めてみた。
きっと一生、忘れることはないと思う。
「そんなに泣くならもう離さないでよっ…」
「うん」
「伊吹がいなくなったら私っ…誰とあの行列並ぶのっ…、誰とっ…一緒にいたらいいのっ…」
「っ…うん」
「うんじゃないよっ…」
顔も、目も、吐息も、手のひらも、心も、
熱くて熱くて仕方がなかった。
体中から愛が溢れたように…どうしようもない。
手、震える。
心臓、うるさい。
やばい本当。
いろいろ、止まんない。
「月奈…」
「…なに」
「あと3年ちょうだい」
「…?」
「それまで俺が…1人で並ぶからっ」
「え…?」
「それ全部持って会いに行くから…」
「………」
「その時はもう泣かせない。寂しくさせない。離さないから…」
いつか帰る場所が、
必ず、
「俺と…結婚してください」
同じになるはずだから。
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