第16話

「伊吹さ、月奈と結婚すんじゃないの?」


「なんでそうなんだよ…」


「てか結婚すればいいじゃん」


「いや無理でしょ…月奈は向こうに永住するし」


「お前が行けよ」


「無理だって」


「なんでだよ」


「なんでって」



うっすら目を開けて朝日を見ると、朝日は思いのほかきょとんとした顔で俺を見つめている。


なんでって…。



「あれ伊吹なんでいんの…」



そう言って俺の部屋を開けたのは、寝起きで頭がぼっさぼさで寝巻き姿の美景だった。


部屋が静かだったからもう出かけたのかと思っていたけれど、よく考えてみたら休みの日に美景が午前中から起きているわけがなかった。



「今日月奈の見送りじゃなかったっけ…?」


「熱あんの。39度越え」


「へー、すごいね」


「てか伊吹、月奈と結婚しないらしいよ」


「え、なんで?」


「さあ?」



2人の会話の意味がわからないのは、俺の熱のせいだろうか。



っていうかなんで俺は2人の中で結婚する前提で話が進んでいるんだろうか。



「俺車出してあげようか?」



そうあっさり言ってのけたのは美景だった。



「まじ?」



動かなかったはずの体を、驚きのおかげで少し起こすことができた。


それを朝日が呆れた様子で支えてくれる。



「プロポーズしに行くんでしょ?」


「だからなんでそうなるんだよ…。俺は日本にいるよ」


「なんで?」


「なんでって…だからっ…」




だって日本には…、朝日が、美景が、父さんがいる。





母さんが死んだとき“家族”という存在は、何にも変えられないものだと気づいたから。



人はいつ死ぬかわからない。



月奈も、月奈の両親も。




だからこそ、一緒に入れるときに一緒にいるべきだと思った。





月奈も俺も、そう、思ったから。





「伊吹って大人びて見えて、やっぱり末っ子気質だよな」


「はっ…?」


「俺もし海外転勤とかになったら普通に行くけど」



朝日と美景は本当に淡々としていた。



こういうところ、2人はよく似ていて、俺にはない部分だ。



「みんないつまでもこの家で住むわけないでしょ」


「え」


「それぞれ結婚したりしたらいつかはバラバラになる。それは当然のことでしょ」



バラバラになる。



美景の言葉が少し胸に突き刺さった。


現実を突きつけられたような、悲しい気持ちになる。


わかりきっていることだけど、それを改めて言われることが嫌で嫌で仕方がなかった。


確かに俺は、末っ子気質だ。




「だけど、それでも家族だよ」


「っ」



この小さな世界の中で、






「ちゃんと、繋がってる」






俺が守ろうとしていたもの一体なんだろう。

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