第15話

―――――――……




月奈の出発の日は朝からいい天気で、春の陽気を感じさせるほど暖かい日だった。



飛行機の時間は正午。


もう少しで11時になってしまうというのに、俺はまだ家にいる。



見送りに行くのが辛いとか、月奈の顔を見て泣くのが恥ずかしいとか、そんな理由ではない。




「げほっ…げほっ」



そもそも俺はまだベッドからも起き上がれないでいる。



「39度4分。無理でしょこれは。つーか死ぬわ」


「あさっ…けほっ」


「しゃべるのも無理なのに空港までなんて行けねーよ」



朝日が手に持っている体温計には、今まで出たことのないような数字が並んでいた。


俺の部屋の椅子に座りながらくるくる回る朝日は「諦めなー」と軽々しく口にしてくるが、今日だけは行かないわけにはいかなかった。



「お願い…車出してくんない…?」


「月奈に移ったらどうすんのさ」


「………」


「月奈にはもう俺からメールしといたから」


「なっ…」



朝日の言っていることを理解するだけで精一杯だった。


焦りのせいでより体は汗ばんでいく。


早く行かないと…月奈は行ってしまう。



でも、体が動かない。



「っ…」




自然と、目の前が滲んだ。



体は震える。


熱くて、寒い。




「最悪……」





どんどん濡れていく瞼の裏に浮かぶのは色んな表情の月奈だった。


馬鹿みたいに熱い頭の中に響くのは、明るくて優しい月奈の声。




嗚呼…俺って本当、こんなに月奈のこと好きだったんだな。




いなくなる直前になってこんなにも実感してる。


馬鹿だな本当。




「好きって…言っとけばよかった」


「………」


「死ぬほど好きだって…っなんで言わなかったんだろ…俺」



隣にいるのは月奈じゃないのに、俺は馬鹿みたいに声を震わせて、馬鹿みたいに泣きながら、本当に月奈に伝えたかったはずの言葉を零した。



「そばにいることがあたりまえだと思ってたんだ…。いなくなることがわかっててもどこか実感なくて…明日からも…月奈はそばでっ、笑っててくれてるんじゃないかって」



閉じていた瞼を開けて、真っ白な壁に目を向けた。



そこには、あんなに穴を開けることが嫌だった画鋲で刺した…月奈との写真。



あの笑顔を、あの声を、あの香りを、あの体温をもうそばで感じられないことが死ぬより辛いだなんて、きっともうこの先二度と思うことはないだろう。



他の誰かを選ぶことなんてきっとない。



月奈以外、もういない。

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