第8話
俺は走った。
その日も雪が降っていた。
吐き出す息は白かった。
「はぁっ…」
こんなにも……、
こんなにも寒い中、感覚もなくなっているはずの手を合わせて、涙を流して、何十分も月奈はその場で蹲っていた。
俺に気づいた彼女は、手も、耳も、鼻も、目も真っ赤だった。
…その時初めて俺は、彼女の優しさに気づいた。
冷たい頬に、温かいものが零れた。
「なんで…」
冷え切った体に触れると、彼女は涙を溜めたまま、俺を見て笑った。
そして、
こう言ったんだ。
「伊吹の、痛みを知りたい」
ただ…それだけ、と。
「悲しみにおぼれそうなときは、私も一緒に泣くからっ」
「………」
「冬だって好きになれるよっ。乾燥してるから星は綺麗に見えるし、手を繋ぐ理由を寒さのせいにできる」
「………」
「伊吹の…笑顔がまた見たいのっ」
「っ…」
「お願いだからっ、関係ないだなんて言わないでっ…」
――そう言って触れた彼女の手は、びっくりするほど冷たかった。
こんなになるまで毎日祈ってくれていたのだろうか。
願ってくれていたのだろうか。
こんなに瞼が腫れるまで…泣いてくれたのだろうか。
その瞬間、俺は初めて月奈を抱きしめた。
2人で苦しいほどに泣いた。
その痛みを分かち合うように、声が枯れて、涙が出なくなるまで。
…その日から俺たちはほとんど毎日一緒にいるようになった。
中学を卒業して、高校に入学して、高校を卒業して、大学に入学した。
「好き」の言葉も、「付き合って」の言葉も、「よろしく」の言葉もなかった。
見えない愛情や絆だけが、なんとなく俺たちを採り囲って、そしていつの間にか16年の月日が流れた。
こんな風に月奈が俺に身を任せて寄り添ってくるのはいつぶりだろうか。
夏は暑いといって近寄りもしないくせに。
冬だからいいのかよ。
…俺は閉じていた瞳を開けて、左手にぎゅっと力を入れた。
冬は苦手だ。
寒くて朝は起きられないし、行動力も失う。
それに、母さんがいなくなってしまった季節だから。
でも…俺が本当に怖いのはきっと……――。
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