第6話

月奈は俺にこのチョコを渡したとき、お返しはディズニーのチケットがいいと言った。



最後の思い出作りに、と。



とても楽しみだと、君は笑った。








――そして3月14日。



朝早い時間から月奈と待ち合わせして、入園を待った。



「3月のくせに今日マジ寒い。やばい」


「全然寒くないよー!それより見てこの耳!持ってきた!!」


「うわー歳考えてよ」


「伊吹の分もあるよ。この間来た時に買ったやつ」


「何持ってきてくれてんの」



またあの行列に並んでるときのような会話が繰り返される。


こんな会話をするのも、きっと今日で最後だ。

月奈と行列に並ぶことは、もうない。



ゲートがあいて、俺は月奈に引っ張られる形で園内を回った。


月奈とここにくるのはもう10回目くらいだ。


いつも月奈のペースに振り回されて、お昼を過ぎる頃には俺はもうヘトヘトだった。





「はい、伊吹アイス」


「うわ、本気だったのあれ」


「本気も本気~!伊吹の好きなチョコ買ってきたから」


「月奈って意外とドSだよね」


「あーバレた?」


「まじうぜぇ」



そう言いながらも月奈が買ってきてくれたアイスをなんとか頬張ると、月奈はなぜか拍手をしていた。

鬼畜だった。


それはとっても冷たかったけれど、やっぱりアイスは甘くて美味しくて、冬でもアイスが売っている理由がよくわかった。




「伊吹~!今度あれ乗ろう!あれ!!」


「140分待ちとかありえないんですけど…」


「それだけ人気なんだよ!!」


「ここ待つの外じゃん!」


「大丈夫大丈夫!じゃあ待ってる間しりとりしよう!」


「はー?」



最初から最後まで、月奈はとても楽しそうだった。


夜になって冷えてくると寒くなってぶるぶる震えていたから上着を貸してあげると、月奈は嬉しそうに笑った。

乗れるだけのアトラクションに乗って、パレードやショーを見て、ポップコーンを首からぶら下げて、無理矢理耳をつけられて、写真もたくさん撮った。




…とても、幸せだった。



この幸せがあれば、俺はもうきっと他になにもいらない。


月奈がボストンに行って距離ができてしまったとしても、月奈がこんな風に毎日幸せに笑ってくれることを本気で願った。




―――――――……




「楽しかったねー」


「うん」


「やっぱジェットコースター乗ったときの写真買えばよかったかなぁ」


「その写真携帯で撮ってたじゃんか」


「伊吹顔やばかったよね」


「うるさいよ」



帰りの電車の中で、月奈は今日の出来事を話す。

それはとても静かな声で、月奈も少し疲れてしまっているのがわかった。




「やっぱミッキー好き」


「お前浮気しすぎ」


「あはは。でもね、本当に楽しかったから」


「そっか」


「うん。伊吹、ありがとう」


「…うん」




月奈は俺を見て笑うと、そのままゆっくりと俺の肩に頭をおいた。


俺の左手と、月奈の右手が絡み合う。




「っ」






――胸がぎゅっと締め付けられた。

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