第30話

「ほんっと腹黒っ」


「持ってるものは使えって言うでしょ」


「悠斗さん可哀想」


「悠斗俺より女を手のひらの上で動かすのうまいから大丈夫だよ」


「………」



…彼方よりうまいってどんな兄弟よ。


私もきっとその悪魔の手のひらの上で転がされてる女の1人なんだ。


今まさにそう。

初めて会ったときから好きとか言われて、手の震え止まらなくて、上手く髪巻けない。


パーマ失敗しても私のせいじゃない。



「雪ちゃん手止まってるー早く巻いてー」


「誰のせいだと思って…」


「ちゃんと斉藤工君みたいにしてね」



いや無理でしょ。


心の中で突っ込み、大きく深呼吸をしてから再度髪を巻き始めた。


ふと鏡に目を向けると、彼方がとても楽しそうな表情をしていた。

付き合っていたときですら見たことがないようなそんな笑顔。


この顔を見ていると、あながちあの“最初から”という言葉は、嘘じゃないように思えてくる。



…何を考えてるのかわからないときの方が多いけれど、彼方のこの言葉を心から信じたいと思った。




「ねぇ彼方」


「ん?」


「仕事以外でもちゃんと会おうね、2人で」


「え、突然何」


「だって付き合ってた時、仕事かその後の飲みか家で会うくらいだったし」


「何?嫌だった?」


「そ、ういんじゃないけど…」


「ふっ」


顔を赤くする私を、今度は直接見つめてくる彼方。


なんか馬鹿にされてる感じがする。



「はいはい。どこに行きたいの?」


「水族館とか」


「うん」


「映画とか」


「うん」


「旅行…とか」


「うん」


「………」


「全部。ちゃんとつれてく」


「っ…」


「カメラ持って。撮影用じゃなくて、2人のアルバム用に」


「…ん」


「そのうち3人とか、4人用になるかもねー」


「ははっ…なにそれ…っ」



笑いながら、涙が出てきた。


彼方はそんな私を見て、更に優しく笑って、そのまま私の頭を自分のほうに寄せてキスをしてきた。



閉じた瞳を開けると、目の前には髪にロッドを中途半端に巻き付けた彼方がいて、その光景に笑ってしまった。




優しい時間だと思った。

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