第8話

「……は?」




正直、誰でもよかったんだと思う。

私も、それに彼方も。



隣にいたのが、たまたま彼方だったってだけで。


その話を聞いたのが、たまたま彼方だったってだけで。




「何言ってんの…冗談やめて」


「だって1人じゃ平気じゃないんでしょ?」


「それは…」


「いいよ俺は。都合のいいときに呼んでくれれば」




私のことを今まで女として見ていないと思っていた彼方からそんな言葉が出たのは意外だった。



「同情なんていらない」


「うん」


「愛なんて、もう信じない」


「わかってる」


「………」


「俺も、





雪路の心までいらないから」






――酔った勢いだった。


なにもかも。


それに彼方がなんとなく応えてくれて。

特に甘い言葉もなく、体だけがなんとなく繋がって。



あっさり始まった私たちの関係は、あっさり終わってしまった。




でもそんなあっさりした関係だったから4年も続いて、別れた今もこうして一緒にいられるんだろう。



「彼方今誰と付き合ってんの」


「聞いて驚け。橋本優奈」


「うわモデルかよ」


「まじやばくね?俺、ちょーモテ期じゃね?」


「うっざ」



彼方は浮かれたように話す。


一応私、あなたの元カノなんですけど。



「明日も優奈と撮影」



そうはにかむ彼方。


楽しそうでいいですね。

私のことなんて本当にもうどうでもいいんですね。



…それならなんで飲みになんて誘うの。



――“じゃあ俺にする?”



そう言ってくれたこの場所で、




――“雪路の心までいらないから”




平気な顔して、私にそう言ったくせに。






甘い言葉はなかったけど、

なんとなく始まった関係だったけど、


そこに愛はなかったけれど、



それでも私にとって彼方は、大切な人だったから。



“別れて。他に好きな人ができた”




他にってなによ。

私のことなんて好きじゃなかったくせに。




「浮気しちゃ駄目だよ」


「しないよ。雪路と付き合ってたときもしてなかったでしょ?」


「どうだか」


「うわひでー」



私たちの関係にもし名前をつけるとしたら、なんですか?



同級生ですか?


腐れ縁ですか?


友達ですか?


元恋人ですか?


セフレですか?




とにかく今は、この関係をはっきりさせたい。

なんでもいいから、名前をつけて。



あなたにとって曖昧な位置に浮かぶ私はとても、


…とても不安定だから。

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