あなたに、会いたい

第9話

――彼方と別れてから1ヶ月。


私の日常は正直言ってまったく変わらなかった。



彼方と別れたからと言って顧客が減るわけではないし、撮影も減るわけじゃない。


私はたんたんと仕事をこなして、彼方のスパルタにも耐えて上手く毎日を過ごしていた。



4年前とはもう違う。

ちょっとやそっとのことじゃへこたれなくなった。


時間が解決してくれたこともあると思う。


もしかしたら、彼方がそばにいてくれたおかげもあるかもしれない。



でももう今となっては、それはどっちでもいい。




「おはようございます」



そして月1の撮影の日。


メイク室に入ってきた人物を見て目を見開く。


今日のモデルは確かこの人じゃなかったはず。

でも「よろしくお願いします」と言って私の目の前の席に座ったのは、あの橋本優奈さんだった。



…もとい、彼方の今カノだ。



「raskaの春原さんですよね?」


「え、ああ、初めまして」


「ふふ。初めまして」



raskaは私の働いている美容室の名前だ。


私に笑いかける橋本さんは、そりゃもう天使のように可愛らしかった。


そりゃこっちに乗り換えるわな、と早速敗北感を感じた。



「でも私は初めましてじゃないんです」


「え?」


「春原さんのこと前にスタジオで見かけたことあるんです」


「あ、そうなんですか」


「彼方…」


「え」


「…と喧嘩しながら撮影してましたよね?」


「っ、ああ…」




…まるで試すように彼方の名前を強調して言う。


一瞬にしてわかったのは、この人は多分、てか絶対…私のことが嫌いだ。




気まずい空気で始まったヘアメイク。

手を必死に動かしている間、ほとんど会話はなかった。



ただどんどん仕上がって可愛くなっていく橋本さんは、もう彼方のタイプそのものって感じだった。



「綺麗にしていただいてありがとうございます。撮影頑張ります」



そう言って橋本さんは笑って部屋を出て行ったけれど、私はその30分、肉体的にも精神的にも疲れてしまった。


っていうか、橋本さんの可愛さに圧倒されたって感じ。

若いんだろうな、あの子。

一体いくつなんだろう。

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