第4話

古谷さんは今まで見たことのない表情で驚いていた。


そりゃあもう目玉飛び出ちゃうんじゃないかってくらい。



「な、なんで?」


「好きな人ができたみたいで。しかももう付き合ってるみたいですしね」


「そ、そうなんだ」



いつも冷静で色んなことを流せる古谷さんも、さすがにそんな私にかける言葉が見つからなかったみたいで、それ以上はなにも聞いてこなかった。



「大丈夫なの?雪ちゃん」


「ぜんっぜん大丈夫です!」



引きずっているわけじゃない。

これは仕事だからやってるだけですし。




「じゃあ私先に帰るね。雪ちゃんはもうちょっとやっていくんでしょ?」


「あ、はい」


「じゃあ戸締りよろしく。お疲れ様」


「お疲れ様です」



古谷さんは高そうなコートを羽織り、少し気まずそうにひらひらっと手を振ってバックルームから出て行ってしまった。

なんだか変な空気にさせてしまって申し訳なかったな…。



「………」



時計の針は進む。


店の方からは後輩たちがなにやら楽しそうに練習をしている声が聞こえる。

今日の営業は忙しかったみたいなのに偉いなみんな。



私は今日1日店を休ませてもらったのに撮影ができなかったことに少し罪悪感を感じながら、今度はデカビタを一気して気合をいれ、原案の見直しに取り掛かった。





―――――――……



「シャドウの色じゃなくて服変えるってどういうズボラ具合?」


「ズボラなんじゃなくてそっちのほうが要領がよかったんです。どう考えてもこのモデルさんにはこのシャドウの色が似合いますし、リップもオレンジ方がいいです。でも髪のボリュームは出しましたし、この服も表参道の店ほとんど回って探し回ったんです」


「………」


「今日もまた出直しますか?」



2日後。


この間と同じスタジオで2度目の雑誌撮影。


私の言葉に彼方が目を細めてモデルさんを見つめる。

スタッフたちが息を呑んだ瞬間、彼方の口角がくいっとあがった。




それは彼方の、OKのサインだ。




「いいんじゃない?」


「え」


「雪路らしくて好き」


「っ」


「じゃあ撮りますか」



そう言って彼方がその白くて強張った細い腕、スタジオの雰囲気が一瞬にして変わった。



…私は、この瞬間がたまらなく好きだ。

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