第5話

何度も跳ね返されて、何度もやり直しをさせられて、やっと彼方に認めてもらえて、彼方のスイッチが入る、この瞬間が。



本当むかつくの。

これでも結構指名入るし、私にやってほしいって来てくれるモデルさんだっているし、雑誌の反響だってすごくいいのに、そんな私に何度も喧嘩ふっかけてくるの、本当嫌い。


別れて正解。



でも彼方がいなかったら、きっと私はトップスタイリストになんてなれてなくて、雑誌の撮影も担当させてもらえなかった。


元彼氏とは言えど、今だって仕事の面では尊敬しているし、感謝もしているのだ。




「モデルさん名前は?」


「染谷美紅です」


「じゃあ美紅ちゃん、撮影終わったら俺とラーメン行きませんか?」


「ふはっなんですかそれ」



――モデルさんが吹き出したその瞬間、彼方はシャッターを切った。



その後も、彼方は冗談を言ったりまるで口説くような口ぶりでモデルさんをリラックスさせながら自然に笑わせた。



そのたびにシャッターを切っていく。



彼方の撮影の仕方だ。

彼方には不思議な力がある。



私は彼方がカメラマンとしての下積み時代、ずっと努力して苦労してきたのを知っている。



それでもこの力は、もともと彼方の持っているものだ。




努力だけでは補えない、彼方の雰囲気。



それに私は惹きつけられた。




ファインダー越しの覗く鋭い瞳に、


冗談を放つその唇に、


シャッターを押すその指に、



撮影が終わった後のあの笑顔に、




私は…恋をしていた。

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