第41話
「千幸さ…」
何度も何度も角度を変えて重なるキス。
骨抜きになりそうなくらい、甘いキスだった。
あなたの名前を呼ぶ間もなく、キスの後、真正面から強く強く抱きしめられた。
「う、苦し…」
「咲、好き」
「っ」
「ひどいこと言ってごめん」
ねぇ私思うんだけど、優しすぎるあなたは多分、1週間前のあの日、ひどいことを言った罪悪感で何度も何度も自分を責めたんじゃないかな。
だって今、こんなにも抱きしめられた腕と、肩と、声が震えてる。
あなたは自分のことをいい人じゃないと言ったけれど、優しさってね、声に出さなくても伝わるの。
言葉にしなくても、体温とか、涙とか、この震えた体とか、料理の味から伝わるの。
だって今日、あんな冷たい態度をとるあなたの料理は、初めて食べたときと変わらないくらい美味しくて、優しい味がしたから。
「俺…もうパティシエはやらない。今の店、本当好きだから」
「うん」
「でも…デザート置こうかな」
「あ、いいと思う」
「桃のクレープとか」
「あー食べたいっ。なんか泣いたらお腹空いてきた」
「ふふっ、じゃあ作る?」
「一緒に?」
「一緒に」
そう言って2人で笑い合うと、千幸さんはもう一度軽く私にキスをしてきた。
そのキスに驚いていると、今度は額にキスをして、濡れた瞼にキスをして、頬にキスをして、最後にまた唇にキスをした。
「うっ…、ちょ…っと」
「俺、キス魔だから」
「へ…」
「ちゃんとついてきてね。先生」
天使のように笑う千幸さんが、私には小悪魔に見えた。
でもその人は紛れもなく私の愛しい存在で、愛すべき人で。
その後一緒に作って食べた桃のクレープは涙をこえて笑顔が零れるような、そんな味だった。
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