第37話

そうして経った1時間。


お店が閉店して、ドアの外で千幸さんが出てくるのを待っていると、ドアをがらっと空けたのは夏目君だった。



「あんたストーカー?」


「あはは…それ元彼の本命にも言われました」


「はーっ…」



大きくため息をつく夏目君。


完全に怒ってる。



「別に怒ってないから…怯えんなよ」


「顔怖い」


「うるさいな。俺もうあがりで帰るから早く入れよ」


「え…」


「俺はあんたのこと苦手だけど、もう嫌いだとか思ってない。それに俺も一緒だから」


「え?」


「千幸に憧れてる」




――“私はっ…千幸さんみたいな人になりたいって思ったっ…”




ああやっぱり…夏目君はあの時の会話が聞こえていたんだ。


憧れてるって、千幸さんの何にだろう。


料理人としての千幸さん?


それとも人としての千幸さんだろうか。



どっちにしたって、夏目君にとって千幸さんは大きな存在なんだ。



「私は夏目君…結構好きだけど」


「っ、うるさい、早くいけって」


「わ」



夏目君に無理矢理背中を押され、店の中へ入らされた。



がらがらっとドアが閉まり、お店の中には私と、カウンターでレジ金を処理している千幸さん。



私を一瞥して、視線を落とす千幸さんの瞳が冷たくて…私はもうなんだかすでにめげそうになっている。



でもちゃんと思っていることは言わなくちゃ伝わらない。


何を言われても、ちゃんと伝える。




「き、聞きたいことがあります…」


「…何?」


千幸さんの言葉はとてもそっけない。


本当にあの優しい千幸さんが、嘘だったみたいに。



「どうして…嘘をついたんですか…」


「…嘘って?」


「………」


「俺が咲に同情したってこと?好きだって言ったこと?」


「……あのカフェで、働いてないって言ったことです…」


「………」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る