第34話

鮮明に思い出す、あのカフェでの出来事。



嘘…、だってこの味は…。




「どうかしましたか?」


「あ、いえ…」


「目…」


「え?」


「涙…出てますよ」


「え………」





――“頑張ったご褒美です。虫歯の治療”




もし会えたなら、いつかお礼を言いたいと思っていた。




この味と、あの優しさに。




「泣くほど美味しかったですか?」


「このケーキ作った人って…」


「今年の春から新しく採用した女性のパティシエなんです」


「女性…?」


「はい。このカシスケーキを食べて、ここで採用することを決めたんですよ」


「………」


「でも来月から海外の方にも呼ばれててそっちのほうに…。ほとんどうちのメイン料理みたいなものだったので、とても惜しいんですが」




このケーキを作った人は、男性ではない。


じゃあこれは、似てるけどあの時私が食べたケーキじゃないの?

私の勘違い…?




――“さっき作った僕の新作なんで”




「もともと彼女は知人と自分のお店を出そうとしてたみたいで。確か場所は椿さんの職場の近くの新横浜のほうだったって聞きました」


「え」


「専門学校に通っていた時から何度かコンクールで入賞しているところを拝見して、こちらからオファーしたんです。よかった会ってみますか?」


「え、あ、いや」


「君、赤羽さん呼んできてもらってもいい?」



断る隙も与えず、雅人さんはウエイターにお願いして“赤羽さん”と呼ばれる女性を呼びに行ってしまった。


なんだか胸が妙に騒ぐ。



カシスケーキとか、新横浜とか、どこか繋がっているような気がして…。




「あ、きたきた」



雅人さんのその声の向いているほうに顔を向けた。





その瞬間、散らばっていたパズルのピースが、1つ埋まったような気がした。

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