第29話

ああ、なんだ。



私はやっぱり、あなたのことが好きだ。


あなたの特別になりたいんだ。



振り返ってあなたを見つめた瞬間、心の中が一気に愛しい気持ちで溢れた。



あなたが誰かに優しくしてると思うと苦しいだなんて、そんなの好き以外のなんでもない。



傷つきたくないからって逃げてあなたを失ってしまうくらいなら、私は傷ついてもいいよ。



だって私が1人じゃないって思えたのは、あなたのおかげだから。





「今日生徒に初めて…先生が教えてくれる料理が好きだって言われました」


「え、まじ?すげー」


「千幸さん」


「ん?」


「私それを、あなたに一番最初に伝えたかったんです」


「…?」


「あなたに一番最初に言いたかったっ…」


「………」


「……この意味…、わかりますかっ…?」



驚くほど声は冷静に出た。


でも最後、ちょっと震えた。



そう自覚した瞬間、なんだか泣きそうになって、心臓がうるさくなってきて、あなたの前から逃げ出したくなってしまった。




「咲」




今名前を呼ばないでほしい。


顔が熱いから。

泣きそうだから。



心が壊れてしまいそうなくらい苦しいから。






「ごめん」






――その言葉で、苦しみは一瞬でかき消された。

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