第28話

私は、千幸さんの特別になりたいのかな。



千幸さんに会いたいと思ったあの気持ちは、ドキドキは、ワクワクは、千幸さんを特別に思う気持ち…?



「あともう1つ」


「………」


「千幸に甘いものの話はすんなよ」


「どうして…」


「当たり前でしょ。あいつは和食の料理人だから」



これ以上言わせんなよと言った瞳で、夏目君は私の頭をくしゃっと撫でた。


そしてそのまま私の横を通り過ぎて、キッチンへ行ってしまった。



「っ…」



…さっきまで、千幸さんに会いたくて会いたくてたまらなかったのに。



こんな気持ちを持つことは、残酷なことだと気づいてしまった。



千幸さんが優しくしてくれるのは、私が女だから。


千幸さんが私をあの時抱きしめてくれたのは、私が泣いていたから。



今千幸さんが送っている人も、もしかしたら女性かもしれない。



知っていたはずだ、私は。



千幸さんは、先輩にも、お客さんにも、夏目君にも、私にも、同じくらい優しい人間だと。




「うわっ、びっくりしたっ…」


「っ」


「え、咲?」



その場で立ち尽くしていると、背中からドアを引く音と、私の名前を呼ぶ声がした。


ビクッと震える体。


待って、どうしよう、私、振り返るの怖い。

今あなたを見たら、泣いてしまいそう…。




「咲…?」




だって今まであなたがくれた優しさが、誰にでも同じように注がれていると思うと、悲しいから。



今まであなたがくれた優しさが、誰にでも同じように注がれていると思うと、辛いから。




私を慰めてくれた言葉を、誰にでも言っていると思うと…、

誰とでも体を重ねることのできる人だと思うと、

私の名前を呼ぶその声で他の人の名前を呼んでいると思うと、




……苦しいから。





――“俺も、咲のこと好き”

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