第27話
――“今日の家庭科の調理実習がすごく楽しかったって話してた”
嗚呼、どうしよう私…。
今とても千幸さんに会いたい。
会って、今あったことを伝えたい。
千幸さんも一緒に考えてくれるだろか、ケーキのレシピ。
聞いてみようかな。
私はその日、急いで仕事を終わらせて、ほぼ終電ギリギリの電車に乗って新横浜へ向かった。
改札を出て、少し小走りで百合桜へ向かう。
ここへくるのは、夏休みに手伝いをしたとき以来だ。
あのあと夏目君が復活してから、行く機会がなかなかなかったから。
なんでこんなにドキドキしてるんだろう。
なんでこんなにワクワクしているのだろう。
よくわかんない、よくわかんないけどあなたに会いたい。
たどり着いた百合桜は、もう看板の電気が消えていて、のれんもしまわれていた。
でも店の明かりはついているみたいで、私は1つ深呼吸をして呼吸を整えてから店のドアを引いた。
「こんばんは…」
店を覗くと、カウンターを拭いている夏目君の姿があった。
夏目君は私に気づくと少し眉を顰めた。
「もう閉店なんですけど…」
「あ、いえ、あの…千幸さんに用があって」
「千幸なら酔っ払った客をタクシー乗り場まで送ってますよ。で、何の用?」
やっぱりこの人は、私のことが嫌いなんだろうか。
言葉の1つ1つが冷たく感じる。
それとも、もともとこういう性格なのかな。
「実はちょっとアドバイスをもらいたくて」
「アドバイス?」
「私の学校の生徒がね、甘いのが苦手な子でも食べられるケーキを作りたいらしくて」
「………」
「前に千幸さんにデザート作ってもらったことがあって、それとっても美味しかったし、もしかしたらデザート作るの上手いんじゃないかと思っ…」
「――あんたさ!!」
突然と夏目君の怒声に肩が揺れる。
そしてその鋭い目つきが私に向けられた。
「わかっててやってんの…?」
「えっ……?」
「夏休み…あんたに助けてもらった恩もあるから忠告しとく。これ以上千幸に関わるな」
「な、」
「あんたも、他の女みたいなポジションに成り下がりたいわけ?」
「っ」
「千幸は女に甘いから来るものは拒まない。でもそれでまた、この間みたいに傷つくよ?それでもいいのかよっ…」
最後の夏目君の声は掠れていた。
私のためなのか、それとも千幸さんのためなのか。
真意はわからなくても、言葉の意味は理解できた。
――“言っとくけどあれ彼女じゃないから”
私も、残酷だと思ったから。
――“女の人は強くて…でも弱い。それを知ってるから”
その優しさは特別になりたいと思う人にとって、
――“頼むから…泣かないで”
――“咲の美味しそうに笑う顔見ると、俺は元気になれるから”
残酷だと知っていたから。
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