第17話

「俺さ、姉が2人いるんだよね」


「え」


「だから女の人に弱いの」


「………」


「女の人は強くて…でも弱い。それを知ってるから」



だから…間宮さんは誰にでも優しくするのだろうか。



誰にでも、その笑顔で笑うのだろうか。




でもそれは、間宮さんの特別になりたいと願う人にとって、あまりに残酷な話だ。




「料理作って出すとさ、笑ってくれんの。今の椿さんみたいに」


「………」


「それが好き」


「っ」


「まあどうしても手がでちゃうのは悪い癖なんだけど」


「ぶっ…」



悪意があるようでない彼の発言に私は思わず噴出してしまった。


彼は笑いながら私におしぼりを渡してくれた。





――“料理作って出すとさ、笑ってくれんの。今の椿さんみたいに。それが好き”



そう言った間宮さんの表情があまりに優しくて、あまりに切なかった。



だから私はぽろっと自分の本音をもらしてしまった。



「でも私は…」


「ん?」


「私は…間宮さんの料理を食べているとなんだか泣きそうになる」


「っ」


「とっても美味しいのに、優しすぎて…なんかっ」


「………」



空になったお皿が少し歪んで見える。



嗚呼…私は、この瞬間を知っている。



まるで、あの時と同じだ。





「咲」





――名前を呼ばれ顔をあげると、間宮さんの顔がすぐ近くにあった。



うなじの辺りに間宮さんの指先が触れて、すぐに離れた。




「…って、呼んでもいい?」




心臓が、止まるかと思った。



「ど、どうぞ」


「じゃあ俺のことも、名前で呼んで」


「ち、千幸さん…」


「ふっ、はい」



私の声に笑って返事をする千幸さんは本当に格好良かった。


先輩のことはよくわからないけど、この人がモテる理由は本当によくわかる。


だってこんな笑顔で笑われたら、そりゃイチコロだ。




「送るよ」



いつの間にか店の締めの作業を終えた千幸さんは車のキーを持って、私を溝の口まで送り届けてくれた。



―――――――……



車の中で、千幸さんは色んな話をしてくれた。


陸先輩とは高校の時部活が一緒だったとか、お店の名前はお姉さん2人の名前からとっただとか、とにかく話は途切れなかった。


仕事終わりで疲れているはずなのに、なぜか千幸さんの会話のテンポは聞いていてとても楽しくて、疲れすら忘れさせてくれた。




溝の口の駅を通ったとき、あのカフェの前を通過した。



…もちろんもう店は開いていなかった。

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