第16話
間宮さんは下唇を噛む私を見て小さく笑った。
先輩といい、間宮さんといい、私のことを完全にてのひらで転がしていている。
だって仕方ないじゃないか。
間宮さんの料理は本当に美味しくて大好きだし、デザートはメニューになくて食べたことがなかったから。
「簡単なやつだけど」
そう言って10分くらいで出してくれたデザートはクレープだった。
折られた生地の中には生クリームと今が旬の桃が入っていた。
一体生クリームと桃をどこから持ってきたのだろうと疑問に思ったが、その上からオシャレにかけられたチョコレートソースと粉砂糖がとても可愛らしい。
こんなのを10分で作ってしまう彼は、やっぱり手際がいい。
「美味しそ~」
「召し上がれ」
「いただきます」
私はカウンターに座り、間宮さんはそんな私を反対側のカウンターから頬杖をついて見ている。
少し顔が近いなと思ったけれど、気にせず一口目を運ぶと、その瞬間に桃の甘さが口全体に広がった。
「お、美味しい~」
「ふはっ、椿さんって本当に美味しそうに食べてくれるよね。作り甲斐がある」
「これ、桃、どうやったらこんな甘くできるんですか」
「内緒」
間宮さんは和食もおつまみも、その上デザートまで美味しく作れる。
本当に料理の才能に恵まれているんだ。
特にこのクレープは格別に美味い。
「間宮さんはデザートも得意なんですね」
「いやー全然」
「メニューでおけばいいのに」
「いや無理でしょ」
「あ、そういえば私この間間宮さんのこと本屋で見かけたんです」
「え?」
「デザートの本読んでたから、おくつもりなのかと思ってました」
「………」
クレープを頬張りながら言うと、間宮さんは少し驚いた顔で締めの作業をする手を止めた。
不思議に思い、私もフォークを止める。
間宮さんはどこか遠い目をして『百合桜』と書かれた看板を見つめていた。
でもそれは本当に一瞬で、私のほうに振り返り、いつものあの優しい笑顔を向けてきた。
「じゃあ見た?俺が女の子と歩いてるところ」
「はい。ばっちり」
「ふっ、言っとくけどあれ彼女じゃないから」
「や、やっぱりそうなんですか」
「うん」
無邪気に頷くけれど、私には縁遠い話に思えた。
私の友達にもそういう人はいるけれど、私は不特定多数に愛を与えるようなことができる人間ではない。
そう言うといつも、そういうものに対して愛はいらないのだと、みんなが口をそろえて言う。
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