第8話
「じゃーお疲れー!かんぱーい」
「お疲れ様です」
中ジョッキを軽く当てて飲み始めると、次々に夏目君が料理を持ってきてくれた。
先輩は機嫌がいいのか、よくしゃべり、よく飲んで食べた。
「俺の彼女料理下手なんだよなー」
なんて愚痴ったり。
「チサの料理は世界一」
とにんまり笑ったりしていた。
“チサさん”が先輩の彼女なのかなと思っていたが、どうやらそうではないようだ。
確かに先輩の言うとおり運ばれてきた料理はどれこれも本当に美味しかった。
見栄えもとても綺麗だしオシャレだ。お店の雰囲気にも合っている。
その上栄養バランスもしっかり考えられていてヘルシーだから女性客が多いのも納得ができた。
女性をターゲットにした居酒屋なのだろうか。
夏目君も格好いいしそれも人気の理由の1つなのかもしれない。
きっとチサさんも女性好みの的をしっかり得ている。
「咲ちゃん、顔にやけてるよ」
「え」
「美味しいでしょ~?チサの料理~」
「はい、とっても」
「あ、でも咲ちゃんは家庭科の先生と栄養士の資格どっちも持ってるんだもんねー。家で料理する?」
「んー今はお惣菜も美味しいの多いですし、本当たまーに」
「………」
「先輩?」
「…咲ってさ、謙虚だよね」
「はい?」
「飾りっ気がないっていうか馬鹿正直っていうか。普通ならここはしてますって言って好感度あげるとこでしょ」
先輩は酔っているのか、私のことをじーっと見つめてくる。
な、なに。
「面倒見いいし、いつもなんかいい香りするし、地味だけど顔は綺麗だと思うし」
「じ、地味って」
「それなのになんでモテないかなー。本気出せば絶対いけるのに」
「………」
「祥馬も馬鹿だよな」
「っ」
“やめてください”
そう言おうとした。
でも言えなかったのは、3ヶ月前のことを思い出したから。
祥馬のことじゃない。
あの、カフェでの…あの香り。
「また来たの、陸」
そう言ってテーブルの上にできたてのチーズオムレツを置いたのは夏目君ではなかった。
チサさんでもなかった。
捲くったワイシャツの袖から覗く白く強張った腕は、細くて綺麗だけれど女性のものではない。
陸先輩を少し呆れたように笑うその声も女性のものではない。
彼がしゃがみこんでふわっと香ったこの香水の香りは、3ヶ月前にあのカフェで香ったもの同じものだった。
私は慌てて顔をあげる。
…心臓が大きく音を立てた。
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