第3話

不思議と涙は出てこなかった。



私はなんでこんなにも冷静でいられるのだろう。


飲み込めないだけだろうか。

実感がないだけだろか。


祥馬と付き合っていた半年という短い時間が、とてもとても遠い記憶のように感じた。



「痛い…」




数時間ぶりに発した声は、声にならない声。




すぐ横にある窓の外には、ところどころ桜が咲いている。


カップルや家族連れや高校生が笑顔で歩いている。





こんなにも世界は穏やかで幸せそうなのに、どうして…。






嗚呼また私は…1人ぼっちになってしまった。








視界が歪みそうになったその時だった。



「つめたっ」



左頬を押さえた左手の甲になにか冷たいものが触れた。




「虫歯ですか?」




きつすぎないシャンプーのような香りの香水が鼻を掠めた瞬間聞こえたのは、聞きなれない低い声。


視界が歪んでいるのと泣きそうになっている自分を見られるのが嫌で、その人に目をむけることができなかった。


私の隣に立つその人はこのカフェのウエイターの服を着ていた。



「これ保冷剤です。タオルに包んで使ってください」


「あ…」


「あとこれも」



私に保冷剤を手渡して、私が彼を確認できないままその後すぐに、冷め切ったコーヒーの隣に白いお皿が置かれた。


そしてその白いお皿の上には、光沢のある紫色を纏ったドーム型のケーキが乗っていた。

紫色のソースの上には、ブルーベリーとミント、それに金粉がふってあった。


とても、…綺麗だった。

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