弁当
氷室さんと一緒に登校し始めて3ヶ月目に突入した。僕らはいつしか、昼食をともにする日も珍しくなくなっていた。
「不知火くんは弁当自分で作っているんですか?」
「うん、母が仕事の日は母の分もね、氷室さんも?」
「はい、私も母の分を作ることもあります。お母さまの仕事は何曜日なんですか?」
「火曜日と水曜日が日勤で作ってる。それ以外は夜勤だから僕1人分だね」
「私はお母さんが月曜日と金曜日がお昼がいるので作っています。被ってませんね」
「うん」
「お互い朝から作るのは大変でしょう。そこで、火曜日と水曜日は不知火くん、月曜日と木、金曜日は私が弁当2人分を作ってくるというのはどうでしょう?もちろん、3人分が大変でしたら私だけが月曜、木曜、金曜日に作ってきますので」
なるほどな、確かに始業時間が結構はやいし、週2日でも、弁当を作る時間を削れれば大分余裕ができるだろう。実際そのほうが効率的だと思う。
「名案だな、でもなんで1日氷室さんのほうが多いんだ?」
「私は料理好きだからです!気にしないでください。」
「でもその提案では君の料理する日が減っているぞ。嘘が下手なんだな、本当は?」
「あなたの料理がおいしそうだから食べてみたいなって思っただけです。私の料理も、お母さん以外の人にも評価してもらいたかったので」
「なら最後の言葉に違和感があるね」
「本当に鋭いひとですね!ナンパの件や一緒に登校してくれているお礼です!大人しく私の弁当を食べればいいんです!」
「だが、それだと君のほうが一食多くなってしまう。フェアじゃない」
「必要ですか?」
「え?」
彼女の少し怒った顔に思わず怯む。
「フェアである必要はあるんですか?貴方がとてつもなく合理的なことは嫌というほどわかりました。
でも私を助けてくれたとき、おばあさんの荷物を代わりに運んだとき、困っている人を助けたとき、あなたは見返りを求めて動いたんですか?少なくとも私のときは何の見返りも求めず、立ち去ろうとしました。私を助けることはあなたにとって何の得も無かった。
私が何の見返りも求めずあなたに何かしたいと思うのはだめなんですか?」
最後は優しく、それでいて強く僕に言葉を吐く。
ああ、僕のエゴだったのかもしれない。彼ら、彼女らにとって、僕からの一方的な施し、逆の立場なら僕は借りを返そうと動くだろう。なのに、僕はそれを受け取ってこなかった。
彼女の言葉を聞いてそう思った。
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